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「地域の物語」を、スリリングに語り続ける劇場。【美術館再開日記・番外編2】

1986年にできた世田谷美術館の地域密着度はかなりのものだが、1997年にオープンした近隣の劇場、世田谷パブリックシアターも、長年地道な教育活動を続けている。学校に演劇公演の出前をしたり、劇場で長短さまざまな日程で、いろいろな方を対象にした演劇ワークショップをしたり。

美術館で長くいっしょにワークショップをつくっている柏木陽さん(NPO法人演劇百貨店代表)は、このパブリックシアターでのキャリアも長い。3月はいつも「地域の物語」というワークショップ・シリーズのファシリテーターを務めている。

このシリーズ、テーマ設定が年々鋭くなっていて(人々の生活から切実なテーマを掬い上げようとしたら、そうなる)、発表会もひそかに評判なのだが、今年はコロナで無観客でやらざるを得なかった。そのぶん、記録映像をしっかり撮った。8月、ようやく劇場で上映会をすると柏木さんからきいて、いそいそと足を運んだ。すごく大きな可能性を感じて、夕空を見上げながら帰路についた、そんな日の日記。

美術館再開53日目、8/2、晴れ。久々に劇場へ。

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都内のコロナ検査陽性者ざっくり300人。
微妙に表現変えても意味不明感消えない。

午後、三軒茶屋の劇場へ。
3月下旬に無観客で行われた
演劇ワークショップシリーズ
「地域の物語」の発表会、
「家族をめぐるささやかな冒険」の
記録映像を見る会に参加した。

コロナ禍の産物であり、
ゆえに未来への一歩でもある企画。

「地域の物語」は
世田谷パブリックシアターの長寿企画で、
演出家や俳優がファシリテーターとなり
一般の方と演劇をつくる、のだが
そのテーマ設定の「いま切実」感がすごい。

今年は去年に続いて「家族」がテーマ。で、2チーム。
ひとつは、「性自認が男性」ならいわゆる性別、国籍、障害の有無は
問いません、という呼びかけに応えて集まった参加者が、
「変化」をキーワードに家族を考えるチーム。

もうひとつは、国際チームというべきか。
日本の参加者と、外国籍の住民が4割の国シンガポールの参加者が、
それぞれ「距離」をキーワードに家族を考えるチーム。
で、どちらも1回5時間・全13回のワークショップ。

発表会の現場だった劇場、
そこで大スクリーンで映像を見る、
というのは予想以上の体験で、
これはちょっと画期的なのではと。
映像自体のクオリティも高かった。

発表会自体が面白かっただろうことは
ほぼ保証されていて、しかし映像しか
見れないとした場合どれくらい伝わるか。

ワークショップもパフォーマンスも
良い記録映像を残すことに
こだわってきた身としては、
めちゃくちゃ気になるのがそこ。

結果、今回のはいけると思った。
じゅうぶん面白かった。

たぶん、ナマよりも淡々とはしている。
ナマだと、もっと豊かなノイズがあっただろう。
でも致命的なほどの欠如じゃない。たぶん。

そう思わせるだけの映像を撮影・編集
できるチームをいつでも組めるか、
という問題はあると思うが
(予算的に←どうしても金勘定思考)、
長い目で見て、これはよく考える価値がある。

だって、自分の身近に暮らしてる人たちが
「いま切実」なテーマをこんなに面白く伝えてくれて、
映像になってるからそれを何度でも上映できて、
いろんな人がそれについて考えられるのだ。未来にも。

ワークショップのシリーズ自体が
長い時間をかけて磨かれてきたからこそ
「伝わる」のだろうとも、思う。

ビギナーズラックを超えるクオリティを
担保するのは、ファシリテーターに経験を
積むことを保証する施設だよねとも、
改めて思う。


※世田谷パブリックシアターは、継続的にジャーナルを刊行している。10年ちょっと前、美術館・文学館・劇場それぞれの教育活動についての、当時の担当者3人が語り倒しているのが『SPT educational』第4号に載っている。自分が参加したから言うわけではないが、これはおもしろい。「世田谷のワークショップ、「これまで」と「これから」」、以下のpdfで読めます。↓


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