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ヒントは、自分の身の回りにあふれてる。『うっとりあじわいじっくりデザイン』導入公開

2019年4月2日に発売された書籍『うっとりあじわいじっくりデザイン』の 導入パートをご紹介します。


味のある手描きの文字、チョークで描かれた個性豊かなお店の看板、ポンと押されたスタンプの独特のかたち。

身の回りにデジタルなモノが増えた現代であっても、手描きやアナログの表現は変わらず魅力的で、さらに人気が増えているようにすら感じます。

手描き表現に温かみや親しみを覚える人が多いのは、誰かが気持ちを込めて丁寧に、手間暇をかけて作られたものだと感じるからかもしれません。整いすぎていない、人の手を感じるところも魅力のひとつ。

それはデジタルデバイスのディスプレイ上であっても変わることなく、アナログを模した表現はデザインに良い質感を与えてくれています。


でも、手描き=温かみのある表現
というだけではありません。

例えば水彩で何かを表現したいとき。淡い色合いでぼんやりぼかして描けば、やさしくやわらかくなりますが、暗めの色を使い、シャープなエッジを残してきっちり描くと、キリッとした印象に変えることもできます。表現の手法次第で、「かわいく」も「かっこよく」もなる。結局はどんな印象を与えたいか次第なのです。


表現手段がカンタンに手に入る
楽しくも難しい、この時代。

コンピュータによる描画の技術は進化を続け、ピクセル(画素)データの羅列であるデジタル画像でも、アナログ表現をかなり忠実に再現できるようになってきました。インターネットを通じて世界中のクリエイターの作品にアクセスできるようになり、良質な素材も手に入れやすくなった今、なにかを一定のクオリティで作ることはどんどん容易になってきています。それはとても素晴らしいこと。

でも、どこか残念で安っぽい感じのデザインになったことはありませんか? あれこれ欲張った結果、足し算だらけでアナログ表現見本市になったり。クールな印象を与えるべきなのに、無意味に足された手描きのあしらいが、世界観を邪魔してしまったり……。


「ありえない表現」ができてしまうのが、
デジタルツールの落とし穴。

デジタルツールだけでアナログを模した表現ができるようになったことの、もうひとつの弊害として、「あり得ない表現」ができてしまうということが挙げられます。「ドロップシャドウ」の機能を使えば影を簡単につけることはできますが、影は本来、光があることで生まれるもの。光源を意識せず思いつきで設定してしまうと、不思議な方向に影が伸びたパラレルワールドになってしまうかもしれません。

同じように、一度作ったカタチを「コピー&ペースト」することは簡単ですが、これもやりすぎたり、拡大縮小の仕方を間違えると、嘘っぽくてどこか薄っぺらい、手抜き感あふれる表現になってしまうことがあります。


では、どうすればいいのでしょう?

なにかをデザインするとき、そこにはさまざまな要素が影響し合っています。どんな表現技法を用いるか、どんな質感を与えるか、どんな色をどのくらいの量で使うか、要素をどんなふうに配置するか。全ての要素が同じ方向を向いている状態にすることで、完成度を上げることができます。デザインで表現したいゴールの場所に、旗を立てるようなイメージです。


うまく旗が立てられていないと、どうなるか。

例えば、クールな印象を与えたいと思って配色やモチーフを選んだのに、配置がごちゃごちゃしてにぎやかな状態では、せっかくのクールさが半減してしまいますよね。要素はひととおり配置されているのに、なんだかまだ未完成な感じがする、目指したい印象と違う……というときは、方向性がズレていないかを考える必要があります。


視覚の解像度を上げよう。

この本ではまず、手描きやアナログ表現の代表的な技法や、日常的に身の回りで見かける素材を詳しく観察するところからはじめます。これは、ともかく「じっくり見る」ことを体験するため。日々目にしている物事をよくよく観察して、その特徴を自分の中にストックしていくことで、似たようなものを見ても違いに気づける、解像度の高い目を養うことができるはずです。では、解像度が高いとなぜ良いのでしょうか?

表現の手段が増える。

たとえば同じ「ピンク」であっても、ちょっと攻撃的なくらいに強いピンクもあれば、地味で落ち着いた印象のピンクもある。自分のなかで細分化され、別のものだと認識できるようになれば、「ピンク=女性的=かわいい」のような記号的な単純置き換えではなく、より良い表現を選べるようになるでしょう。


方向性の違いに気づける。

表現手段が増えることで、これまでは「同じ」に見えていたものが、実は「違う」ものとして見分けられるようになります。たとえばちょっとした罫線ひとつでも、完全な直線と、ちょっとゆらぎのある線では、与えられる印象はわずかに変わりますよね。そういう細かな方向性の差に敏感になることで、よりデザインの完成度を上げられるようになります。


嘘っぽさに気づける。

水彩絵の具は透明なので、なにか絵を描いたときは下の紙の色が透けてみえるはず。なのに完全に不透明にしてしまうと違和感が生まれます。このように、わずかでも「実際にはあり得ない状態」があると、品質を下げてみせてしまうのです。嘘っぽい表現を目にしたときに「なんかヘンだな」と思える感覚を養うことが大切です。


ヒントは、自分の身の回りにあふれてる。

手を止め、顔を上げて、身の回りをぐるりと見渡してみましょう。誰かが何かの意図をもって作ったモノや、時間や自然が作りだした造形たち。そこにはどんな素材がありますか? モチーフは? 色は? 光はどこからやってきている?

良いな、素敵だなと感じたものがあったら、うっとりしながら心ゆくまで味わえばいい。普段は気にもとめないようなわずかな特徴までも、虫めがねを持つような気持ちでじっくり観察すれば、きっと何か新しい発見があるはずです。その小さな発見の積み重ねが、いつかどこかであなたの力になる。これは決して手描きやアナログな表現だけにとどまらない、長く役に立つものの見かた、考え方です。


テキスト:筒井美希
イラストレーション:鈴木衣津子



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