ビジュアルブックみたいな、デザイン書があったなら
よく聞かれる質問として「なぜ本を出すことになったんですか?」というものがあります。わたしの場合はある日突然、MdNの編集さんからこんなメールが届いたのが始まりでした。
わーい、またブックデザインのお仕事依頼が来た・・・と思ったら、えっ、著者??と、2度見3度見したことを覚えています。確かにMdNさんの書籍はデザイナーが著者になることも多いですが、自分がそれをやるとは想像してなかったもので。
このときお声がけいただいた企画は「最新の実例を取り上げ、傾向や解説を加える」という事例本のようなもので、結論から言うと「わたしよりも適任の方がいると思う」というお返事をしました。というのも当時はまだADになったばかりで現場の仕事に没頭していたため、世の中の事例を見る時間が作れていない自覚があったから。そんな自分が誰かの作った事例を解説するというのは、ちょっとおこがましいような気がしたのです。
ビジュアルブックみたいな、デザイン書があったなら
ただ、これが「自分が本を作るとしたら?」を考えるきっかけになりました。すでにレイアウトやデザインに関する書籍はたくさんある中で、わたしはどんな切り口を持てるだろうかと考えたら、できる限り言葉をビジュアルに変換し、非言語で直感的な表現にすることだと思った。
現場で「デザインを良くするためのヒント」に気づけたり、自分のなかで体系立てることができた瞬間の、あの心おどる気持ち。それをなるべくそのままのカタチで紙面に落とし込むことができたら、ビジュアルブック的なデザイン書が作れるんじゃないだろうか。いや、むしろそんな本があったら新人のときに嬉しかったかもしれない。これは、見てみたいぞ……!
まあ、実際作り始めてみたら大変すぎて死にそうになり、ビジュアルベースの本がそこまで多くなかった理由は痛いほど分かりましたが、当時は「こんな本あったら楽しい!」しか考えていませんでした。
デザインはプロセスこそが面白い
当時、レイアウトのテンプレート集のような書籍がわりと売れていたのですが、「テンプレにはめれば素敵なレイアウトができます♥」みたいな内容に対しては正直疑問があったのも確かです。デザインはその伝えたい内容ありきで決まるものであって、先に存在するテンプレに内容を当てはめていくものではないはず(入りやすいし学習プロセスとしては否定しませんが)。
わたしの場合は「同じ要素でもデザイン次第でこんなに違うんだ!」「そうか、伝えたいことから考えれば、どういう表現が良いのかを判断しやすいんだ!」という現場でのプチ感動の積み上げでプロとして仕事ができるようになっていったので、そのプロセスを再現するページが作れないかな、というのは最初から考えていました。
そしてまた、特にエディトリアルの仕事って成果物からはその面白さや価値がわかりにくいんですよね。出来上がりを見た親戚に「このイラスト描いたの?」と聞かれるのとかはデザイナーあるあるな気がします。
描いてないし、書いてもないけど、ページを成立させるためにはなくてはならないパート。デザイン次第で伝わりやすさは全然違うけど、携わっていないと理解しづらいその価値を、紙面に再現してみたいと思ったのでした。
そして制作スタート
他にもぼんやり考えたことをコンセプトとして整理しながら、自分なりに本の企画や仮の台割を作ってみて、改めて編集さんにご提案。そのまま企画を通していただき、出版に向けた制作が始まりました。
……ちなみにこの時、2013年。出版は2015年7月だったので、まあ、そのへんはいろいろとお察しください。次回に続きます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?