ジャズ理論

いわゆるジャズ理論(それが「理論」と呼ばれるだけの科学的整合性を持っているかはさておき)の中にAvailable Note Scaleと呼ばれるものがあり、それにについて聞かれることがよくあります。
概ね、
「コードとスケールは一対一で対応しているのか?」
「それ以外のスケールは使えないのか?」
「スケールから外れた音はどうするのか?」
「そもそもこの考え方自体がおかしいのではないのか?」
などアドリブの方法論の見地からのものが多いようですが僕の知る限り、これはもともとアドリブのための方法論ではなく、アレンジ(ヴォイシング)のための方法論だという認識です。

バークリー(といってももう30年以上前の話ですが)にChord Scale Voicing for Arranging というBig Band Arranging の一つ前の授業がありました。(今でもあるようです)
これは与えられたコードにおいて5〜6声でのハーモナイズを考えるもので、何をハーモナイズするかと言えばもちろんメロディーです。そのハーモナイズに際してメロディーの音、曲のキー、コードのディグリー、key of moment などを考慮しヴォイシングに使用可能なスケールを割り出すというもので、そのメロディーに使用可能なスケールは何かということではありません。
つまりこのコード上でどのスケールが使用可能かということではなく、そのコード上のあるメロディー音をハーモナイズするにあたってその場を構成しているスケールは何か、という考え方。

例えばm7といってもそれがⅡm7 なのかⅢm7 なのかⅥm7なのかによってヴォイシングに使用可能なスケールは変わり、Ⅱm7→Dorian、Ⅲm7→Phrygian、Ⅵm7→Aeolian という紐付けがされます。
ではmaj7はどうか?上記にならえばⅠmaj7はIonian、Ⅳmaj7はLydian ということになりますが、これもメロディーよって変わります。
例えばKey:Cで”Moon River“の3小節目Fmaj7はディグリーはⅣmaj7。メロディーはBなのでLydianとなりますが、”Misty”の3小節目Fmaj7はそれはそれに先立つGm7- C7およびメロディーにB♭が出てくるためF Ionianがふさわしいと考えられ、ヴォイシングにあたってBを組み込むことは一般的にはしません。(B♭を組み込むこともしませんが…)

このように、その局面におけるヴォイシングに最もふさわしいスケールという意味であったのが、いつのまにか「与えられたコードの上でアドリブをするのにどのスケールを使えばいいのか?」というふうに逆転してしまったのではないかと考えています。

興味深い事例としてはコルトレーンの”Moment’s Notice”
2段目3小節目のD♭maj7はそれに先立つE♭m7 A♭7により導き出されているので"Misty"同様Ionianになりそうですが、メロディーがGを通過しているのでコードスケール的にはLydianです。
この曲をもしコードを考えずにメロディーだけを移動ド(これについてもとりあえずここの場での定義付けはしません)口ずさんだとしたら
「ミーミ、ミーミーミ、ミーファソソーファー、
レーレ、レーレーレ、レーミファミーレー
ドーーラーーソーミードーレ」
とここまでは転調なしにE♭のキーのまま歌えます。
ではソロを取るときにはそのように考えているか?
これは人によって違うでしょう。とりあえず僕はそのようには考えていませんが、あるいは同じ人でもテンポによって違うかもしれません。
また、ここまでを全てE♭キーに軸足を置きながら取ることは可能かもしれませんが、それが必ずしも音楽的に優れているための条件ではありません。

ジャズにおいては作編曲などのライティングはインプロビゼーションを中心とする演奏より再現性を求められるので、こういった「ジャズ理論」はかなり有効ではあるのですが、そもそも「ジャズ理論」と呼ばれるもの自体、経験則の集積といった側面が強く、その意味では「便利な道具」として機能しています。

ただこのAvailable Note Scale のように元々の目的とその結果が逆になって広まってしまったものもあり、そこは出来れば修正していければなと思っています。





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