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トラ トラ トラ

昨日は赤坂ビーフラットでジョナサン カッツの”Tokyo BigBand”
4日ほど前にジョナサンから久しぶりに電話があった。「来週の月曜日、出来る?」レギュラーメンバーが体調不良で出来そうにないとのこと。
僕はフルートやクラリネット、ソプラノサックスでさえやっていないので基本的にビッグバンドには呼ばれない。
自分のフロントページ オーケストラや小曽根真さんのノーネーム ホーシズはある意味、特殊な例外と言っていいだろう。
ダブリング(フルートなどの持ち替え)ができないのはもう物理的に無理なのだけど、それ以上に問題なのは読譜能力。

これは一体どうしたもんだろう?
多くの仕事仲間に自分の読譜力の弱さを嘆いてみても「あ、僕も譜面弱いんですよ」みたいなことしか言わない。
「慰めてくれるのは有難いんだけど、ウーン、そういうんじゃないんだよな」

ともあれ、今回は僕のかなり根本的な問題である「読譜力」についていろいろ考えてみた。
多くの管楽器奏者は学校の吹奏楽部で楽器を始めるが、僕の通っていた中学、高校はなぜか吹奏楽部がなかった。それもあって僕は楽器を始めたのが17から18才になる頃とかなり遅く、それまで楽譜を読んだことはなかった。
バークリーに行って、更にその問題に悩まされることになる。バークリーではアンサンブル授業で学生のレベルを揃えるために学期毎にオーディションがあり、僕が受けた最初の結果はとても人に言えるものではなかった。

それ以来40年近く、自分としてはかなり練習してきたつもりだけど、この分野に関してはあまり上達したという実感はない。
周りの仲間でもそういう人はいるけど、大抵ビッグバンドなどの読譜が要求されるシーンからは早々に遠ざかって活動している印象。

僕はビッグバンドに呼ばれることは少ないけどビッグバンドなどの譜面は書いている。
そしてこれはよくある誤解なのだけど、譜面を書く能力と読む能力は全く別のもの。自分が書いた譜面なんだから読めるだろう、というものでは決してない。2秒で通り過ぎる1小節を書くのに2時間だってかけられのだから。

いろいろ勉強してみると読譜能力は脳の短期記憶とその処理、いわゆるワーキングメモリーにかなり関係しているようだ。「Nバック課題」といわれるものに近く、これを利用したゲームアプリなどもある。これは訓練によって多少は向上するものの、脳の遺伝的形質として得意、不得意の個人差が大きい。どんな譜面でもまるで手品のようにスラスラ読めてしまう人は確かにいる。

中でもある種の特殊技能と言ってもいいのが「初見」
その場で配られた譜面を1〜2回、多くても3回で完璧に演奏する能力、いわゆるスタジオミュージシャンはこれがないとまず務まらないだろう。
ビッグバンドは人数が多いので別日にリハーサルをするのが難しく、また昔は譜面を予め郵送してくれることは滅多になくほとんどは現場での初見になるので、この初見能力がある人だけが呼ばれていた。
しかし現在ではネットの普及により譜面も音源も受け取り予習ができる。
今回ジョナサンから送られてきた11曲を本番までに練習して、改めて譜面の読めなさを痛感した。

「譜面が読めない」には2通りあって、自分では絶対にやらない音の連結や運指の場合と、普段の演奏で当たり前にできているものでも譜面になっているとできない場合。
前者は読譜力の問題というより単にテクニック不足で時間をかけて練習するしかない。そのための充分な時間がない場合は最悪「捨てる」部分になるだろう。しかし後者は「譜面は苦手」という自己洗脳に陥っているわけで、これは本当に情けない気持ちになる。

また、1人では吹けてもバンドの中では吹けなくなってしまうこともある。これは主に自分の音が聞こえないための場合と自分だけが違う動きをしているようなトリッキーな書法の譜面の場合があり、自分の音と人の音を分離して聴く、あるいは誰と同じ動きをしているのか、ブレンドしているか、誰を選択的に聴くべきかを判断する現場での経験値を上げることで改善される。つまり一人でいくら練習してもなかなか難しい。
また隣のプレーヤーがタイミングなどを間違うと釣られてしまう人は多いけど、本当に読める人はびくともしない。

しかし何と言ってもちゃんと譜面を予習していれば初見能力に問題があっても大抵はカバーできる。つまりそこで読めないのはミュージシャンシップの欠如、更に言えば「舐めてる」と捉えられても仕方ない。
僕のやっているフロントページ オーケストラにトラで来てくれるミュージシャンは皆、きちんとさらっていて、完璧な演奏をしてくれる。本当に凄いなと、そのミュージシャンシップに感動する。
この間の樹麻君にしても石川君にしても本当に素晴らしかったので、僕も誰かのトラで呼ばれた時はそうありたいと思う。特に今回ジョナサンの東京Big Bandのドラマーは樹麻君だったのでその思いは強かった。

そういうわけで短い期間だったけどかなり練習して本番に臨んだんだけど、やはり読めないところは何ヵ所かあった。そして実は「読んでいない」こともわかった。
本番前のリハーサルのときに配られた譜面がメールで送られてきたものと違い、全然読めなかった。結局テナーパートの1と2が入れ替わっていただけだったので元に戻すと問題なく読めた。やはり練習したものしか読めないのだ。

ともあれ、ジョナサンのチャートは素晴らしく、バンドメンバーも実に暖かいヴァイブスで迎えてくれてとても助かった。
I feel that I become a member of the world.
皆様に心より感謝いたします。

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