脳波の解読方法 - 分類と検証
私が研究しているブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)は、脳活動を読み取って、意思伝達をしたり、ロボットを動かしたりする技術です。
BCIが人の意思を読み取るには、計測した脳活動に意味を付与する必要があります。
例えば、この脳波は右手を考えている時、この脳波は左手を考えている時、等。
この記事では、研究者がどのように脳波に意味を付けて、どのようにそれらを分類しているのかについて解説します。
脳波に意味を付ける「ラベル付け」
AIでも使われる「ラベル付け」という作業があります。
これは取得されたデータとラベルと呼ばれるデータの意味を1対1で対応させる処理です。
例えば、猫の画像と犬の画像を分類するAIを作りたいとします。
この時に使われる猫の画像と犬の画像ですが、そのままではどちらもただの色付きの正方形のデータでしかありません。
その画像に「猫」や「犬」と判定をしているのは人間です。
ただし、人間といってもある程度物体を言葉して認識できる年齢でないと、画像を猫か犬に分類はできません。
なぜ人間がそれらを分類できるかというと、周囲の環境から、「猫」と「犬」の色や形を教えられることによって、学習するからです。
AIでも同じように、データに犬や猫といった「ラベル」を付与してあげることがAI開発の第一歩となります。
同じように脳波でもラベルを付与することが、脳波分類の第一歩です。
猫や犬のように明確な形は持っていませんが、脳波も目で見てα波が多く含んでいる等の特徴を判別することができます。下図では左の方が周期的なパターンの波が含まれていることがなんとなく見えますでしょうか?
この波の特徴をBCI研究者はAIに認識させます。
例えば、人が眼を開いているか、閉じているかを、脳波のみから判定するBCIを考えます。
脳波計を装着した対象者が、我々の方向とは反対の方向を見ていて、こちらからは眼の開閉が分からないとします。
この時、予めα波の含有率を脳波から計測すれば、目の開閉を判定できます。
問題はそれをどのようにAIにやらせるか。
α波が10%含まれている時の脳波を「閉眼」、そうではない脳波を「開眼」としてラベル付けをしておきます。
すると、AIは自動的にα波が含まれた脳波を「閉眼」として判定します。
今α波が10%含まれている時の脳波を開眼とラベル付しました。
では、この10%というのは適切な割合でしょうか?
実はこれがBCIの難しいところで、この割合が判定の精度に大きく影響します。
学習とテスト
BCIの開発には大きく分けて学習フェーズとテストフェーズがあります。
学習フェーズとは脳波にラベルを付ける作業、そしてラベルが付いた脳波をAIに読み込ませて、AIを進化させるフェーズになります。
一方のテストフェーズはAIが正しく脳波にラベルを付けられるのか?を試すフェーズで、先程の例だと正しく閉眼・開眼と判定できるかを検証するフェーズです。
なぜこのように分かれているかというと、学習フェーズで得られた脳波が全てではないからです。
どういうことかと言うと、例えば先程は10%のα波が含まれた脳波を閉眼とラベル付しました。
これはラベル付をする時に、閉眼脳波が7%, 11%, 15%のように、大体10%前後のα波を含んでいると分かっていたとして、このようにラベル付をしました。
しかしながら、このようにラベル付をした脳波をAIに学習させて、BCIを開発して実際に使ってみると、うまくいかないことが大半です。
蓋を開けてみると、人や場合によっては、閉眼時のα波が5%の含有率の人もいれば、1%の含有率のときもあるからです。
そうなると、今度はその5%や1%の脳波もAIに学習させる必要が出てきます。
ではどうするか?
簡単に想像できるように失敗で得られた20%や50%の脳波もAIに学習させてあげれば良いのです。
こうして学習をしたAIで試して、テストで駄目だったという経験を繰り返す事で、BCIで用いるAIは進化をしていきます。
ただし、人を使って脳波計を装着して毎回テストをするのは時間と労力の無駄ですね。
よって、テストフェーズは実際の環境でテストするときもあれば、仮想環境という疑似脳波や疑似テストデータを用いて、効率化を図ることもあります。
疑似テストデータを使用する手法の1つが交差検証法と呼ばれる手法です。
まとめ
BCIに使用されるAIがどのように開発されるのかについて、ラベル付とテストの観点から説明しました。
ここで説明した例は非常に簡単な例ですが、こういった考え方を基本として、更に高度な手法を使うことでBCIは実現されています。
私がこれまで関わってきた研究やプロジェクトは以下のサイトから見れますので、応用先を知りたい方は参考にしてみてください。