脳波ってなに? 脳科学者が一般向けに説明してみる
脳波ってなんだろう?
脳波って聞いたことはあるけれど、どういった測定方法なの? MRIとの違いはなんなの?
本記事では実際に脳波を研究に使用している著者が、一般向けにその特徴や実際の応用例などを解説します。
脳波とニューロン
脳波について知るには、我々の脳が何によって活動しているかを知る必要があります。
我々人間が高度な考えや行動を持つために形成された脳。
実は脳には「神経細胞」または「ニューロン」と呼ばれる細胞が1000億個も存在しています。
そして、1000億個近いニューロンが脳の中ではネットワークを作っています。
このネットワークを「ニューラルネットワーク」と呼びます。
機械学習やAIを少し触ったことがある方ならピンと来るかもしれませんが、AIの手法の1つである「ニューラルネットワーク」は脳を模倣した手法なので、この名前が付いています。
では、このニューロンが情報を伝達する際に、どうやって情報を伝達しているかというと、「電気」です。
人間の細胞というのは、ご飯を食べたり水を飲んだりして生成するエネルギーで動いています。
そのエネルギーによってニューロンが活動し、化学的な反応が起こって電気が生じます。
この電気が頭蓋骨を通って、頭皮上まで到達したのが電極で計測されると「脳波」となります。
なぜ「波」という名前になっているかというと、この電気が一定ではなくて、時間的に変化するからですね。
小学生の時に、電池に豆電球を繋いで電圧を測りましょうみたいな実験がありますよね。
そのような単純な電子回路は電圧が一定でしたが、脳波は揺らいでいるために波というのです。
他の測定方法との違い
ここまでで話してきたのは脳波の話でした。
脳波は頭皮上に漏れ出てくるニューロンの電気活動。
それでは、脳波以外に脳を計測する方法はないのでしょうか?
実は脳波以外にも脳活動を測定する方法はいくつかあります。
中でも精度が高い方法はfMRIと呼ばれる磁気共鳴機能画像法です。
病院で見たことがある方もいるかもしれませんが、白くて大きくてドーナッツみたいな形の機器ですね。
ニューロンは活動する時に血液を使用するので、血流の状態が変わるというわけです。
脳の中に張り巡らされた血管一本一本のレベルで脳の状態を測定できるので、脳波よりも高精度に脳活動測定が可能です。
しかし、fMRIにもデメリットがあり、必ずしも脳波よりも優れているというわけではありません。
脳波と比較したfMRIのメリット
脳の活動を空間的に測定できる
高精度
脳波と比較したfMRIのデメリット
早い脳の活動を測定できない(脳波はミリ秒単位で測定可能、fMRIは秒単位)
機器が大掛かり(価格も高いし、ポータブルではない、気軽な測定ができない)
私が今開発をしているブレイン・コンピュータ・インタフェースの技術は、脳とロボットを繋ぐために、高速性が求められます。
また、難病患者の方が日常的に使用することを考えて、安全で誰でも使えるものでないといけないのです。
ですので、研究として脳の活動を正確に把握する際や、病気等の診断をする際にはfMRIを使うわけですが、日常使いのアプリケーションを考えると、脳波の方が適しています。
以下の写真は10万円程で購入が可能なOpenBCIという脳波計ですが、スマートフォンくらいのサイズしかありません。このくらいの機器でも、最低限の脳活動を取得することができます。
他にも睡眠時無呼吸症候群の治療は、寝ている時の脳活動を長時間測定しなくてはなりません。
こういった長時間の測定はfMRIでは高コストで難しいので、脳波の方が優れている訳ですね。
脳波の分析方法
脳波は時間的に変化する電位の変化という話をしました。
それではこういった脳波を我々脳科学者はどのように分析しているのでしょうか?
最も有名な特徴にα波やβ波というものがあります。
これらは何かというと「振動の種類」なのです。
波というのは周波数という単位で表現することができます。
高い周波数は振動が早く、低い周波数振動が遅いです。イメージ的には以下のような感じ。
この図では脳波を低周波と高周波に分解していますが、実際にはもっと100〜200単位の周期的な振動に分解できます。
この分解方法の1つがフーリエ変換です。
分解された波の周波数ですが単位としてはHz(ヘルツ)を使います。
上のイラストだと左は5Hz、右は100Hzのようなイメージです。
脳の活動に由来する周波数としては1〜65Hzくらいと言われているのですが、この中で8〜12Hzをα波と呼びます。
試しに目を開けている時と、目を閉じている時の脳波を取得してみました。
以下のグラフは、横軸が周波数、縦軸が周波数の強さを表しているのですが、8〜12Hzの強さが目を閉じている時に大きくなっています(青枠)。
このように目を閉じただけで脳波の周波数は変わります。
そして今は8〜12Hzのα波だけに注目しましたが、その他の範囲のδ波、Θ波、β波なども分析することで、より複雑な脳の働きを分析することができる訳です。
それは組み合わせの時もあり、例えば、
高いα波 + 低いΘ波 = 眠気が高い状態
といった、周波数の組み合わせで、人の状態把握をすることもあります。
今はAIが発展してきているので更に複雑な法則を考えられる訳ですね。
パッと思いつくだけで
認知症のレベル診断
ドライバーの眠気予測
広告の効果測定(興味を持っているか)
睡眠の段階判定
ストレスのチェック、うつ病のレベル判断
等々、日常生活に役立つような研究から臨床研究まで様々な領域に脳波は応用されています。
脳波の特徴をどのようにこれらの診断レベルに紐づけるかと言う話は、少し難しくなるので、また別の記事で書けたらいいなと思います。
脳波の時間的・空間的特徴
ここまで、脳波というのは時間的に変化する電圧だという話をしました。
更に踏み込んで空間の話をしましょう。
脳には部位があります。前頭葉、頭頂葉、後頭葉の様に各部位に名前が付いています。そして、過去の研究から脳部位と脳機能に関係があることがわかってきています。
例えば前頭葉は感情、頭頂葉は運動、後頭葉は視覚に関係が強い、といったことが先行研究によって分かっています。
すると、電極を貼る場所を慎重に検討する必要が出てきます。
感情に関する分析をしたかったら前頭葉、運動に関する分析をしたかったら後頭葉に電極を貼り付けます。
電極の位置は国際10-20法と呼ばれる以下の画像のルールが定められており、脳科学者はこの位置に従って電極を配置します。
電極の数は少ないと1極で済ませる場合もありますが、大抵は8〜32極、多いものだと128極〜256極使用するケースもあります。
電極を頭部に広く貼り付けておけば、どの脳部位が最も強く反応したかといったことが分析できます。
例えば、右手の動きに最も強く反応した脳部位はどこか?
といった研究の疑問に、配置した電極を比較すると、答えることができます。
この場合は、左頭頂葉が反応することが分かっているので、左頭頂部に装着した電極の活動が、最も右手の動きに相関します。
上記の国際10-20法の部位では「C3」という名前の電極に相当しますね。
更に「強く反応した脳部位はどこか?」という説明をしましたが、先述した周波数を使って、「α波が強くなった部位はどこか?」という分析もできます。
この様に脳波を分析する際には、電位情報の時間的変化と空間的変化の両方に気を配る必要があります。
まとめ
本記事では脳波とは何なのか?他の計測手法に比べたらどういう特徴があるのか?
そして脳科学者がどのように脳波を扱っているかについて解説しました。
この脳波をどのように料理して、ロボットや機械に繋げていくかが、私の研究しているところになります。
私がこれまで関わってきた研究やプロジェクトは以下のサイトから見れますので、応用先を知りたい方は参考にしてみてください。
https://sites.google.com/view/mikito-ogino