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ドロンした仕事、私ならこうする

前の投稿で予告した通り、私ならこうする的なことをツラツラと書いてみます。ただ、私は一介の通翻訳者。企画やマーケティングの知識は皆無ですので、ご了承ください。

1) 商品作りの準備
今回はWebサイト上で公開するロマンス小説の翻訳版が商品です。これを作るために必要なのが……
●翻訳者(原文の翻訳を担当)
●校正者(翻訳された文章の校正を担当)
●SE(日本語アップ時における既存システムの問題解決担当)

まずは翻訳者。
翻訳クオリティの基準設定、ワード単価の設定はもちろんのこと、1日でこなせる平均ワード数を調査して、1作品の翻訳に必要な平均期間を決めます。それと同時に全作品に共通するスタイルガイドと表記一覧リストも作ります。

次に校正者。
翻訳された文章を適切な日本語に整えてもらうため、ここでも1日でこなせる平均文字数と単価を調査して、自社のレートを決定します。作業を依頼する際に当然スタイルガイドと表記一覧リストを提供します。

そしてSE。
日本語版を作る場合、もともとのシステムが日本語以外で構築されていることが多く、トラブルが発生する可能性があります。ダミー原稿で問題点を洗い出して解決することが重要です。社内の技術部門が担当することも多いので連絡を怠らないようにします。

2) マーケティング
商品を読者に届ける戦略を練るために、まずは市場調査をしっかりと行います。日本市場のロマンス小説の中で人気のあるジャンルと自社がイチオシしたいジャンルを照らし合わせて、ローンチ時に公開する作品を選出し、公開作品数も決めます。

同時進行で、PR方法を決定し、活用するソーシャルメディアを決定。市場調査をしっかりと行っていれば注目を集めるための斬新なアイデアも出てくることでしょう。まあ、これはマーケッターさんの実力次第とも言えますね。

ここで無料版の数や条件、有料版の料金体系と条件も決めます。日本市場の他社サイトと照らし合わせて、自社サイトに有利かつ有益な料金設定にします。

3) 予算配分決定→人材募集
上記の人件費や宣伝費などを含めたコストを鑑みて予算配分を決め、それに沿って必要な人材の人数を決めて募集します。

4) 商品作りスタート
翻訳者が決まったらすぐに作業開始。翻訳原稿の納品後、校正者に校正を依頼します。ローンチ予定日までに決定した作品数分の準備を完了します。

5) ローンチ後
実際にサイトを運用し始めてから気づく問題もありますので、トラブルシューティングを怠らないようします。

さらに作品ごとのヒット数を常にチェックして、人気のあるジャンルと作品、人気のないジャンルと作品を選別し、継続的に翻訳版をアップする作品、続きのアップを保留する作品、新たにアップする作品を決めます。人気のない作品はその原因も探ります。

こんな感じでしょうかね。

翻訳という仕事をしていると、実務翻訳であっても、作業を始める前にスタイルガイドとグローサリーの提供が普通です。

文芸翻訳の場合、スタイルガイドと表記一覧リストが表記の揺れを防ぐ武器となります。件のプロジェクトでは表記一覧リストがなかったので自分で作りました。

翻訳者が作品ごとに表記一覧リストを作れば、それを校正でも利用できるのでオッケーとも言えます。それでも、全作品共通の表記一覧リストがあると翻訳時に確認できるので、作業がかなり楽になります。

思っていた通り、肝心要の商品作りに十分なリソースを割けなかったことが件のプロジェクトの敗因です。「翻訳クオリティが良くなくても他市場では問題ない」と担当者が言っていたのですが、日本市場ではそれが通用しないことも明確になりました。日本にはない独特の世界観を持った作品が多かったので残念ですね。

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