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No.137 旅はトラブル / イタリア再訪ひとり旅2010(4)マミとの再会&「擦り切れたタイヤ倶楽部」への期待

No.137 旅はトラブル / イタリア再訪ひとり旅2010(4)マミとの再会&「擦り切れたタイヤ倶楽部」への期待

No.136の続きです)

窓の外に流れる木々の緑とその向こう側の黄金色の干し草を見ながら、ローマ駅で出会った「擦り切れたシャツ」を着て逞しく生きる少年を思った。僕の次の「お客さん」を見つけただろうか。ガラスの向こうの草地の中に家々が見え始めたのは、次の停車駅が近づいたのだろう。

終着駅ピサの数駅前、マミとの待ち合わせ駅「castiglioncello カスティリョンチェッロ」が近づくにつれ、僕の頭の中のスクリーンはローマのあの「擦り切れたシャツ」を着た、クリッとした目の少年から、十数年ぶりに再会する二人のお母さんになったマミの大学時代の顔へと変わり、そして、まだ見ぬイタリア人の旦那カルロくんの顔や背の高さなどは焦点が定まらないままピンボケ状態で映し出された。

時間的には、もうすぐ到着だ。電車の窓を通し見たここまでの停車駅は、青の掲示板に白い文字で書かれたアルファベットの駅名が無ければ、故郷のいわきに向かう常磐線の各駅停車駅と寸分変わらないようにも見えた。電車はスピードを落とした。外にゆっくりと動いているように見えた、イタリアらしい青色の下地の上に白く書かれた「castiglioncello」の文字も止まった。

トラベルケースを持って駅ホームに降りると、目の前にローマへの上り車線があり、その向こうに、数人も入れば一杯になるであろう小さな駅舎が見える。複数の笑い声が右の方から聞こえ目を向けると、若い女性が4人軽装で出口へと向かう。その後ろに親子3人の姿が見え、ここカスティリョンチェッロ駅で下車したのは、僕を含めこれで全員だった。

マミの姿は小さな駅舎内にも、ホームにも見当たらなかった。トラベルケースを椅子のようにして座り、10分経ってもマミは現れなかった。すっかりイタリア時間が身についているな、眩しい陽光と晩夏の爽やかな風を浴びるのにも飽き始めたころ、小さな駅舎の中から「しんやさ〜ん!元気〜!」と両手を元気に振り、逆光の中でも輝いているマミの笑顔が見えた。

「よ〜、相変わらず元気だな〜!オレがそっちに行くよ!」地下道を渡り、駅舎でマミと10数年ぶりの再会だ。「ごめん〜、遅れて〜!」「マミ、見た目は全然変わってないなあ〜。ほんとに二人のお母さんなのかいな。時間の感覚はすっかりイタリア人だな。まっ、謝るところは、まだ日本人が残っているか」「相変わらず、口悪いね〜。しんやさんこそ、変わっていない〜」「もう少し、髪の毛あっただろう」「キャハハ、変わんないよ〜。そんなもんだったよ。うちの旦那さん、もっと無いよ〜」それを聞いてもカルロくんの姿態は、当たり前だが、まだ映像が結べずピンボケ状態だった。

駅前に停めてあった青いフィアットに荷物を載せ助手席に座り、マミの運転お手並拝見とあいなった。近況報告を交わしたあと、マミの提案があり、それに従うことにした。義理のお母さんのルイーザさんとカルロ旦那さんと二人の子どもは別の車で買い出しに行っている。マミと僕とでビーチも美しい保養地カスティリョンチェッロの街歩きと、地元のイタリアンレストランでランチを楽しむこととなった。

「日本語でタップリおしゃべりしてこい」カルロ旦那の命令があったと、マミは笑って話す。ここまで聞いたプランでも期待十分だったが、次に続いたマミとの会話は何かを予感させた。

「しんやさん、映画好きだったよね。カルロもルイーザお母さんも映画大好きでね。ここカスティリョンチェッロは、マルチェロなんたらって俳優さんの別荘があったんだって。その俳優さんといつも遊んでいたおじいちゃんたちが、日本語にするとね『擦り切れたタイヤ』ってクラブを作っていて、なんか飲んだりしながら一日中だら〜っておしゃべりしているんだって」げっ、もしや…「マミ、マルチェロなんたらって、マルチェロ・マストロヤンニって名前じゃなかった」「そうそう、その人」。

イタリア映画は僕の一番の好みであり、もっとも好きな映画監督はフェデリコ・フェリーニであり、マルチェロ・マストロヤンニはフェリーニ映画のいくつかの主演男優であり、僕のもっとも好きな男優の一人である。彼の別荘があったところだったのか、ここカスティリョンチェッロは。マミが続ける。「私もおじいちゃんたちの溜まり場のクラブの場所分かるから、一緒に行こうよ」

お洒落な高級ビーチで海風を浴びる思惑も、地元の人たちが絶賛するイタリアンランチの誘惑も、開け放たれた車の窓の外に飛んでいって、ローマでのあの少年の「擦り切れたシャツ」を思わせる名前の「擦り切れたタイヤ倶楽部」に集う「擦り切れた」じい様たちのピンボケしたイメージの幻が僕の心を支配した。

・・・続く

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