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No.246 「小野さん、このままだと死にますよ!」糖尿病克服?記録(3)宮本先生とのやり取り

(No.245の続きです)

塾の仕事を早めに終えた月曜日の21時過ぎ、主要幹線中山道から脇道へと愛車プリウスを滑り込ませ、おそろしく入り組んだ小道の突き当たりに、外観の一部が半円柱の洒落た建物に着いた。車二台駐車できる程度のスペースの横、移動式の電飾看板の上に明るく「宮本医院」の文字が目に入ってきた。隣に、綺麗に刈り込まれた高さ3mほどの真っ直ぐな木が聳えている。

思ったよりもずっと綺麗な待合室に入ると、患者は誰もおらず、初診の手続きを終えると、すぐに名前を呼ばれ診察室へと入った。そこには、僕より少し若いだろうか、恰幅の良い体格ににこやかな顔の白衣姿の男性がいて、椅子からすっと立ち上がった。

「初めまして、小野さん、かな」愛嬌ある笑顔を浮かべた。
「あっ、いいお医者さんだな」僕の嗅覚が囁いた。
宮本先生との出会いだった。

診察室に入る前に記入した問診票や板橋区の健康診断結果を机の上に置き、僕をしっかりと正面に見据え、宮本先生はにこやかに「どうしましたか?」と尋ねてくれた。

診断結果や書類のみを見て、こちらの顔も見ずに会話する医者には、医者に限らずか、そういう輩にはそれまでに少なからず会っていて、結果的に親しくはなれていない。

血圧の数値、脈拍数、血糖値…僕の体調を示す様々な指標を、宮本先生は既に把握していたのかも知れなかったが、目の前に座る僕を「数値化した患者」ではなく「体温を持つ一人」と見做してくれたようで好ましかった。

「今まで通っていた病院が閉まって、新しい病院を探していたんです」体調や病気の話ではなく、こちらの都合の答えに、宮本先生は「そうなんですか。どうやってうちを探したのですか。どなたかお知り合いでもいらっしゃいましたか?」と返した。怪訝な雰囲気はなく、面白がっているのか笑顔が絶えない。

「ネットで探しました。小児科や眼科もあるお医者さんだと混みそうで、嫌だなと思いました。こちらは内科専門なのですね。それと診療時間が夜だけなのが謎で惹かれました。怪しげなお医者さんかなと期待しましたが、綺麗で素敵な病院ですねー」本音丸出しの僕の言葉に、先生は笑って説明してくれる。「小野さん、面白いですね。僕は、昼間は北区のA病院で働いて、内科部長をしています。ここは自宅で、近所の人や知り合いから、開業を頼まれて、何年になったかな?20年にはなっていないかな」

大きな病院で高い地位に就き昼間働いて、夜から自宅で診療「このひと、医者が天職だわー」嬉しくなった。土日でも頼まれれば平気で授業をする自分と、同じ匂いを持つ宮本先生が、話を本筋に戻してくれた。「小野さん、区の健康診断結果、ちょっと前のものですね。今から血圧を測り、採血をしていいでしょうか?」愛嬌溢れる物言いだった。「ええ、もちろんです」

測ってみると、血圧が150を超えていた。下も90いくつかの数を示していた。「薬飲んでいて、これは高いですねー。採血の結果は来週出ますので、来てください。血圧は毎日測ってください。えっ、血圧計持っていないんですか。購入してすぐに測りはじめてください。何かにメモしておいてください」

「気の合うお医者さんに出会えたので、血圧も上がったのだろう。血圧の高い人は、高い必要があるの」都合の良い結論、どこぞで耳にした都合のいい言葉を呟き、血圧計を購入して記録する宿題も後に置いて、帰宅の途の中山道、緩く曲がるカーブの道でアクセルを踏み込んだ。

・・・続く

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