髙橋幹夫

髙橋幹夫

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自作朗読原稿『昭和の音、昭和の調べ』

その時、もう夜達い時間でした。 「カラオケ大会をするので、よかっら来て下さい」 と言われて、約束の場所に行ってみると、そこは郊外の、町外れの、寂しい公園でした。近くでカラオケ大会ができ るとは思えない場所でした。と、突然、手に持っていたスマートフォンが、ガラバゴス携帯に姿を変え、そのガラケ ーが今度は、ブッシュフォンに変わり、とうとうダイヤルを回して使う、黒電話になってしまいました。そして、電 話が鳴り出しました。待ち合わせに遅れるという知らせかもしれません。 リンリンリリン

    •  アフリカ −チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『ジャンビングモンキーヒル』 ローラン・カンテ『パリ20区、僕たちのクラス』−

      「アフリカ」というと、「アフリカ歴訪」とか「アフリカ市場」とか、「歴訪」する、あるいは「市場」参入するのが、 50を超えるであろう国々のうちの数カ国であっても、「アフリカ」とひとくくりにされることがほとんどで、想起され るのも「アフリカ」という単純なイメージに過ぎない様に思うが、当たり前だが、「アフリカ」人にとってそれは違う、 日本人が、中国やコリアに「アジア」というのではない「日本」とは違うそれぞれのイメージを抱き、「中国人」や「コ リアン」の実際の風貌や言葉の響きの違いを

      • 名門の名は浜言葉

        ひとり娘が産まれて、 「名前、エリっていうのはどうかな。今どきの変に凝った名前じゃなくて。字は、漢字というのも硬いし、ひらがな はかえって気取ってるし、カタカナで「エリ」っていうのはどうかな」とポクが言うと、ウチの奥さんは優しい表情 「そうね」と言った。 実は、その時、隠していたことがあった。いや、隠そうとして隠したんじゃない。 そのひとり娘のエリは、小学校に入学すると、我が子ながら、なかなか出来が良く、夫婦共に横浜生まれ横浜育ちの ウチの実さんとボクは、 「それなら、やっぱ

        • 午睡(シエスタ)

          語ることを失って、私は演じ始めたが、近頃では、鼻の赤を気にするようになっている。 寝台で目を閉じても、そうするのに相応しい時刻であるのに、重く漂う予感がし、まぶたでは、白い顔が踊りだす。私 に拍手を、それは笑み無きものとなるであろうが、送り続けなくてはと思う。演ずることなく過ごせる時に入りたい。 けれど、夢は果たされぬまま朝を迎えることになる。 「今日は道化を探し出そう」、街に出れば容易に見つけられる気もする。彼は私の部屋にやって来て、何もかもを知らせ てくれ、ロを閉ざした

        自作朗読原稿『昭和の音、昭和の調べ』