「海外の企業」で働き続ける
海外の企業で長年働いていると、日本に住んでいたらあまり感じることのない、「アウェイ」感を強く味わう事がよくある。
それは「言葉の壁」だったり「人種の壁」だったり、「考え方の違い」だったり、「働き方の違い」だったり。
いくら努力したって解決できない、自分ではどうすることも出来ないところでの「目に見えない差別」というものも残念ながら存在する。
私は文化服装学院を卒業した1995年から現在まで、日本の専門学校1校、フランスのラグジュアリーブランド3社、アメリカの高級ブランド1社、合計5社で正社員として働いてきた。
日本で5年間、海外の企業で約20年間働いてみて、日本は日本の大変さ、海外には海外の大変さがそれぞれあるのだが、今回は海外の企業で感じたことのみに関して書きたいと思う。
海外の企業で採用されて現地で働けば、当然私は「外国人」だ。仕事も日本語ではなく、その国の言語を使って働く。私はいわゆる「帰国子女」ではなく、日本で生まれ、日本で教育を受け、日本で29歳まで働いていたので、私の母国語は「日本語」だ。だからいくら頑張って英語やフランス語を話しても、やっぱり日本語のアクセントはあるし、言い回しや表現の仕方がネイティブっぽくないことも当然ある。
先日、バレンシアガ時代の同僚たちに偶然カフェで会った。彼らと知り合ったのは私がバレンシアガ社に入った2002年だからもう17年前からの知り合いになる。私がバレンシアガを退社した2006年以降も、街で何度もすれ違ったり、人づてやSNSでそれぞれの近況は常にアップデートされていた。
そのうちのひとりとは私がニューヨークに住んでいた時にあちらで晩ご飯を一緒に食べたりもしている。
彼とは仕事を辞めてからももう何度もパリですれ違って、すれ違う度に夕飯やお茶を今度しようと「彼が」提案してくれるので、それを約束して別れるのだが、実は、実際にその約束が実現したことは3年前にニューヨークでご飯をするまで一度もなく、それまでは具体的に待ち合わせの時間等をフィックスするための連絡を取ると見事に「無視」され続けていた。
言っておくが、彼は意地悪な人でも社交性がない人でもない。むしろ真逆の、非常に人当たりがソフトで社交性もあり、「ファッション業界の人々」とも非常に仲が良い「感じの良い」人物である。
私だって意地悪じゃないし、一生懸命働くし、まあヘタなりにフランス語で「インターナショナルなギャグ」のひとつやふたつもかまして、それなりに面白がられてはいたから、同僚達に嫌われることはなかったと思う。
ただ、一緒に会社で働いていた時から、フランス語がうまく話せなかった「私」は彼らにとって「プライオリティ」ではなかったんだと思う。
まず、言葉がうまく話せないからもう一緒に仕事にならない。パタンナーや縫い子さんのポジションであるならまだ技術でカバー出来るが、デザイナーはコミュニケーションが出来てなんぼの商売だ。自分の意見が言えなければもう「補欠扱い」か「子供扱い」だ。私抜きで全ての物事が進んでしまう。
そして私に優しくしたところで、この極東から来た外国人が彼らの今後のキャリアアップに繋がる「有益な」情報や仕事を持ってきてくれるわけでもないから、彼らからしたら私は「一緒に食事するに値しない」のだろう。
また、私が彼らの「アシスタント」として働いているうちは彼らも非常に「優しい (フリして大量の仕事を振ってくる)」。日本人は文句も言わず黙って、たとえフランスの労働時間が「週35時間」と決まっていても、夜中まで残業してあちらが期待していること以上の仕事をしてくれるからだ。
でも一旦、彼らより上のポジションに昇進したり、彼らより良い待遇を受けるとなると、彼らはそれを心からよしとしないだろう。彼らの方が日本人より「上」だというのがやっぱり彼らの根底にあるからだろう。
ヘッドハンターや会社の人事も然り。たとえどんなに私の方がデザインや技術的に実力が「上」でも、会社の「顔」となるポジションの採用となれば、きちんと口の立つ、見た目もブランドのイメージにふさわしい人材 (=欧米人) を選ぶことになる。
まあ、これは「キャスティング」の問題であって、一概に「人種差別」とは言いきれないのであるが、やはり、外国人は欧米人の2倍も3倍も努力していかないとなかなか認められないというのは間違いないだろうし、たとえ努力したとしても自分の夢が海外では最悪叶わないこともあるということを心に留めておかなければならないだろう。
私たちだって仮に自分の働いている日本の企業に、日本語のあまりよくわからない外国人が働くようになったら果たしてその人に責任のある仕事を任せることが出来るだろうか。
「交換留学生」としてあなたが海外にいるのであればあなたは「お客さん」だからみんな優しくしてくれる。でも一旦その国の社会に入り込もうとするなら外国人だって容赦しないシビアな実力社会だ。
それも踏まえた上で、海外の企業で働くということは非常にやりがいがあるし、楽しいこともあるし、日本では見えなかったことも見えたりしてすごくいい経験になると思うのでチャレンジしてみたい人は是非やってみたら良いと思う。
どうせ日本で働いたって別の苦労や辛いことがたくさんあるんだから、どっちみち大変な思いをするなら自分が本当にやってみたいことを一生懸命にやればいいと思う。
ところで前述の元同僚が、出会って14年目にしてやっとニューヨークで食事してくれたのは、きっと彼が私のことを「食事を一緒にする価値がある」人とようやく認めてくれたからに違いない。
そういった意味でも、海外に来てから19年間、本当にいろいろ大変だったけどギリギリながらも頑張ったことは本当によかったと思うし、これからもどんな状況でも努力を怠らず、もっとキャリアアップしてやろうと思っている。