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とうとう、「パリの生活」 が始まった

パリの空の下で

2000年の夏の終わりのある日、私はパリの地に着いた。

先月29歳になったばかり。
教員の仕事も辞めて、仙台のアパートも引き払った。

パリにはスーツケース1個分の荷物を持ってきた。
宇都宮の実家に用意しておいた、ダンボール一箱に詰めた冬物の衣料品は、住むところが決まったら、弟がパリに郵便で送ってくれることになっていた。


ここまで来たら、もう後には引けない。

とりあえず3年頑張って、もし仕事が見つからなかったら、日本に帰ろうと思っていた。

貯金は、生活費2年分。それもギリギリの金額。

2年経っても、仕事が決まらなかったら、いちど日本に帰ってバイトでお金を貯めて、そのお金で3年目を乗り切るつもりだった。

「もう、こうなったらやるしかない!」

一旦、パリに着いたら、もう覚悟は決まった。



初めてのフランス暮らし

仙台に住んでいた時に通っていたフランス語の学校には、フランス人の先生が常に7、8人いたし、近くの東北大の仏人留学生達も、仙台のフランス通の人々もたくさん学校に集まっていたので、また、フランス人の物の考え方や、フランス文化についての本も事前に読んでいたから、実際パリで出会うフランス人や、フランスの習慣にそんなに驚かなかった。パリに来るのもこれが3度目だ。

5年間コツコツ習い続けたフランス語も、まだ全然ダメだけど、でも普通に暮らすだけだったら、まあまあなんとかなるかな、というレベルだった。

そして以前、同じフランス語のクラスで勉強していた同年代の女子が、何人か、もう既にパリに住んでいたので、彼女達から得る情報もヘルプもあり、あまり生活の心配することはなかった。



むしろパリに行く前の、日本での最後の1ヶ月の方が不安でたまらなかった。

どんなことでも、新しいことを始める前にはいつも、これから始まる未知の世界への不安と期待、本当にこの選択で良かったのか、という気持ちと、もう後戻りできない気持ち、これからどうなってしまうのだろう、という気持ちとで、もう、頭の中がパンパン、心臓ドキドキになって、連日、眠れなくなってしまう。

でも、実際始まってしまえば、肝もドンと据わってしまうのが私の性格らしい。 


アパート探し

パリに着いて最初の10日間は、やはり仙台から同じ便でやって来たフランス語学校の生徒、彼女はピアノ留学のための渡仏だったが、その彼女と7区の短期アパートをシェアして共同生活を始めた。

その10日間に、長期のアパートを見つけて正式に引っ越す予定だった。

私の予算は、家賃月2,000フラン(当時のレートで約40,000円)以内。この値段だとアパートを数人でシェアするか、または昔、メイドが使用していたであろう屋根裏部屋を見つけるかしか選択肢が無かったが、それでもパリで暮らせるのだから不満はなかった。

実は、仙台の教員時代に散々無駄遣いをしてきたので、十分な予算がないのは自業自得、むしろ、節約生活でどれだけのことが出来るのかが楽しみだった。

パリに着いた日は、たしか、ちょうど木曜日で、実は毎週木曜日は、フランス人がよく、不動産の売買や賃貸の時に利用する『PAP (de particulier à particulier)』紙や『フィガロ』紙の発売日なので、短期アパートに着くなり、近くのキオスクにそれらを買いに行き、パリに既に住んでいた友人の、フランス人のボーイフレンドに、気になる物件に電話してもらったが、全部留守電で内見も出来ない状態だった。

当時はもうインターネットが普及していたが、まだまだ新聞などや日本食料品店などの店内に貼られた広告でアパートを見つけるのが主流だった。

次に、日本人のためのフリーペーパーで見つけたアパート数件を内見。

最終的には、日本の本屋さんに貼ってあった広告で見つけた、2区にあるフランス式5階にあるアパートを、日本人女性2人と、日本語を話す韓国人男性1人、計4人でシェアすることになった。

私の部屋は6畳くらいで、月2,100フラン。中庭側に面しとても静か。鍵が部屋ごとに付いていたので、プライベート部分はきちんと確保出来て、パリの中心に位置し、交通の便もすこぶる良かったので、この値段にしては、まあまあ上出来だった。

このアパートには、香港に住む大家さんが、家を売るので退去しなければならなくなり、マレ地区のおしゃれスポットにある、エレベーター無し最上階、トイレ共同の小さな屋根裏部屋に引っ越す、2001年5月まで住むこととなる。




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大森美希 / パリ在住ファッションデザイナー
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