感動を目指すプレゼン

mikiokousaka

プレゼンをどう作ったら良いのか?に答えようと思い、記載すべき内容だけでなくて順序も重要なため説明が難しく、参考にできるものを探していたところ、世界的に有名なベンチャーキャピタルのSequoia Capital社から6,000 万円の資金調達をした時に使ったと言われている、Airbnb社が2009 年に作ったプレゼン資料を見つけた(https://attach.io/startup-pitch-decks/)ので、これに解説をつけました。

プレゼンの内容と構成は下記の通りです。
1、タイトル(Context)
2、顧客課題(Where)
3、提供価値(What)
4、市場性(Why/Why now,Why this,Why me)
5、プロダクト(Why/Why you)
6、マネタイズモデル(How)
7、誰も知らない新たな機会(Know)
8、チーム(Who)
9、成長性(When)
10、まとめ(Presentation)

1、タイトル(Context)
プレゼンの最初になる、このタイトル部分が一番大事だと言っても過言では無いです。
何を話し出すのか?を待たせている間に見てもらえる部分ですし、何をやるのかのコンテクスト(状況,脈絡,文脈)がわかるように「一言で説明(One-Line description)」出来ることが必要だからです。
プレゼン全体の主題(テーマ)にならないといけないので、タイトルは単なる件名や要約ではなく、プレゼン全体を見通した上でのコンテクストを記載します。
Airbnb社では、自分たちがやることを一言で説明(Book rooms with locals, rather than hotels) するだけでなく、特徴あるプロダクト名(Air Bed & Breakfast)にまとめている点で優れています。
更にその名称は商標も取っているところに抜かりの無さがあります。

タイトル(Context)

2、顧客課題(Where)
先ず説明すべきなのは顧客課題です。
具体的で説明しやすい、製品価値は何(What)で実現方法は如何(How)、というところからプレゼンを初めがちですが、必ず、どんな顧客のどんな課題(Where)を解決したいという動機から説明します。
説明する相手に、何故(Why)必要なのか共感してもらうことを目的として、「課題」が身近にある意外性や大きさへの驚き、提示された根本となる問題は解決すべき「論点」だと、判ってもらうことが必要だからです。

顧客課題(Where)

3、提供価値(What)
続いて、プロダクトの提供価値を説明するのですが、必ず如何(How)が先にあって、何(What)がを後にして説明することを意識する必要があります。
顧客課題(Where)にとって、提案する実現方法(How)が最適であること、それによって提供価値(What)が生まれることを簡潔に具体的に言い表わします。

提供価値(What)

4、市場性(Why/Why now,Why this,Why me)
ここで、何故今なのか(Why now)、何故これをするのか(Why this)、何故顧客に受けるのか(Why me)の説明をします。
例えば資金調達のプレゼンであれば百億円以上の大きな市場性がある、と言えると良いですが、大事なのは「何時までに幾ら」獲得するかなので、ただ大きな規模の市場があるというだけの提示では関心を持ってもらうことも出来ません。
自分達が何と競合するかも重要で、同じでは無くても同様のプロダクトに顧客がいることが(Why me)になり、それが急成長しているなら何故今なのか(Why now)の説明になります。
このプレゼンの2009年時点のAirbnb社もそうですが、Amazon社(1995年) ,eBay社(1995年),PayPal社(1998年),Facebook社(2004年)のいずれのスタートアップも、創業時に対象としていた市場は参考になる先行事例として扱えない程の小ささです。
何故これをするのか(Why this)として、市場自体が成長していくことを理解してもらい、順序立てて大きな市場が狙えることを説明します。

市場性(Why/Why now,Why this,Why me)

5、プロダクト(Why/Why you)
プロダクトの紹介は、判りやすさが重要です。
実現方法(How)としての製品戦略の説明になりますが、提供価値(What)を説明するためだからといって、カタログのように機能の説明を詳細に行うのは間違いで、一番重要な利用方法について動作が確認できる模式図等を使い、利用者の使い勝手まで提供できると説明することで、何故自分達がやれる(Why you)のかを明確にします。

プロダクト(Why/Why you)

6、マネタイズモデル(How)
どの様な手法で収益をあげることを考えているのかを説明します。
広告,販売,手数料,クラウドファンディング,ライセンス,サブスクリプション,レベニューシェア等の手法から、どれを選ぶのかも大事ですが、誰が誰にお金を払うのか?を、顧客課題(Where)に基づいて説明する部分です。
良く有る間違いは、色々な人が広告を観てくれるとか、クラウドファンディングでお金が集まるといった、当事者以外からの収益を当てにした選択で、それらが自分達の働きかけで継続して増やせることを説明できなければ成功しません。
如何(How)に、自分達が顧客接点を持つ(4PのPlace)ことができ、認知させる(4PのPromotion)ことができるかの説明が必要です。
顧客を見つけて購買につなげる「アクイジョン」から、活用してもらう「オンボーディング」、満足度を上げる「アダプション」までが想定できていればよく、その先の、活用を広げ「エクスパンション」、継続利用を促し「リテンション」、改善させる「チャーン」までの説明は、ここでは要りません。
競合比較は、客観的に自分たちの製品戦略(4PのProduct)や価格戦略(4PのPrice)を説明するためのものです。

マネタイズモデル(How)

7、誰も知らない独自の機会(Know)
プレゼンは理解してもらうことが必要ですが、単に理解して感心されても意味はなく、納得感を与えることが重要です。
知っていることだけの説明であれば、プレゼンを聞くまでもないので、実は期待されているのは、誰も知らない独自の機会(The Secret)の提示なのです。
共有認識に立った上で、一般的な理解とは違う顧客課題(Where)の原因の発見や、知られていなかった実現方法(How)や技術、想像を上回る提供価値(What)を説明します。
今まで知られていなかった理由が明らかになっていれば何故(Why) までを説明することができます。
Airbnb社は、この新しい市場で知られていない競争優位性を提示しています。

誰も知らない独自の機会(Know)

8、チーム(Who)
自分と仲間や協力者についての説明をします。
自分達は誰(Who I am)で、何を知っていて(What I know)、誰を知っているのか(Whom I know)は、自分達で出来ることの証になります。
学歴や受賞歴を示すだけでなく、自分と仲間の得意分野や能力が何なのかを説明し、自分達だけではなく補完してくれる協力者がいることによるチームの強さを強調します。

チーム(Who)

9、成長性(When)
トラクションと呼ばれる、収益や利用者数の増加といったプロダクトへの引きの強さを成長性として説明します。
利用者についても登録ユーザー数やアクティブユーザー数だけではなく、リテンション(継続)率やチャーン(解約)率が優れていること、既存顧客と新規顧客の比率も指標になります。
収益の伸びに期待が持てるかが資金調達における最大の関心事項なので、売上額,利益額,利益率,顧客単価,経費といった財務指標で説明できれば説得力が増すと思われがちですが、成長性を問われているので計画達成ではなく、正しく変化を捉えている(Why now)ことを説明出来なければ、計画自体を否定されます。
成長性とは、顧客からの引き合いが有ることに尽きるので、このAirbnb社のプレゼンは極端な例ですが数値は何も示さず、様々なメディアに報道され注目が集まっていることや、顧客が欲しがっているという声から、大きな機会(SWOT分析のOpportunity)が到来していることを示しています。

成長性(When)

10、まとめ(Presentation)
プレゼンを行う動機は、聞き手のふるまいを変えて、もっと詳しく話しを聞きたい、誰かに伝えたい、プロダクトを使いたい、仲間に入りたいといった行動変容を起こすことです。
一番大事なタイトル部分と同様に、質疑応答に入るための間に見てもらえる部分なので、関心を向けてもらいたい提示(Presentation)を、この最後のページで行うべきで、間違ってもEOFやThank youページを表示してはいけません。
Airbnb社が、前段の成長性の部分では明らかにしなかった目標数値(80,000件の取引き) をここで示したのは秀逸で、12 ヶ月で到達するための投資(500,000ドル)を促すのに、効果的なプレゼンになると考えたからだと思われます。

まとめ(Presentation)

プレゼンは、単に理解され「感心」してもらうだけではなく、納得感を与えて「共感」を得ることが重要で、行動につながる「感動」を目指して行うものと言えます。

Mikio Kousaka

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