ユーザーインターフェースの重要性が高まる背景
この記事は上記の続きです。デザインについてトークした内容についてせっかくなので文字でも少しまとめるシリーズです。今回は少し歴史的な話にも触れながら、なぜユーザーインターフェースが近年注目を集めているかについて書いて見ようかと思います。
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ユーザインタフェースが何かってのはわかったけれど、そもそもユーザーインターフェースという言葉はいつからあったのでしょうか?100年前、あるいは50年前にユーザインタフェースと言う言葉が使われ、我々はその重要性に気がついていたかと言うと、おそらくそうでは無いでしょう。
今から50年前と言うと、「すべてのデモの母」と呼ばれるダグラス・エンゲルバート氏の伝説的なデモが1968年です。
当時、このプレゼンテーションが世間に大きな衝撃を与えたとは言え、これはテクノロジーを使うとこういったユーザーインターフェースが可能になるよという、どちらかというと技術主導のプレゼンテーションであって、世間がユーザーインターフェースの重要性に関心を持っていたかと言うと専門家の間でも決してそうでは無いでしょう。
DAノーマン氏の「誰のためのデザイン」が1988年に出版されているので、おそらくその頃から専門家の間でユーザーインターフェースの重要性が認識され始めたのではないかと思っています。実際、「インターフェイスの科学」(守屋慎次氏、1988年)では、当時のソフトウェアの開発工数の50%から90%がユーザーインターフェースに割かれていると指摘されています。
ではそれ以前にユーザーインターフェースが無かったかと言うと、もちろんそんなはずはありません。例えば日本では太平洋戦争後、1950年代にはテレビ、洗濯機、冷蔵庫が三種の神器と呼ばれていましたし、1960年代になるとカラーテレビやクーラー、電子レンジなどが普及し始めます。これらの機器を操作するためには当然なんらかのユーザーインターフェースが必要です。
これらの製品と、現在私達の身の回りにある製品と大きく異なるのはシステムが複雑になっており、それぞれのボタンや、スイッチの役割がひと目では理解できない、つまりアフォーダンスに乏しいということでしょう。アフォーダンスという言葉の定義については、上述したD.Aノーマン氏の書籍を参考にしていただくのが良いかと思いますが、乱暴に言ってしまえば、ユーザーインターフェース自身が、その意味(システムの概要や、機能や効果など)を説明しているかということです。
(https://www.flickr.com/photos/mxmstryo/3507201141から引用)
例えば、昔のテレビを想像していただきたいのですが、ユーザーインターフェースとしては電源のスイッチと、チャンネル切り替えダイヤル、ボリューム調整ダイヤル程度でした。そしてユーザーは、テレビの機能や仕組みについて理解できていました。もちろんブラウン管の仕組みについて理解していたわけではないでしょうが、おそらくこんな感じの理解をしていたのでは無いかと想像します。
テレビは電源を入れると、放送局から飛んできた電波を受信して画面に映し出すことが出来る機械である。放送局は複数あってどの放送局を映し出すかユーザが選択することが出来る。音はスピーカーから出ていて任意に調整することが出来る。
これぐらいの単純な仕組みであれば、システムとユーザーインターフェースとの関係性を理解するのが難しくありませんから、ユーザーインターフェースの重要性をそこまで意識する必要がありません。
ところが、今のテレビはというと、数十個のボタンが並んだリモコンで操作するスタイルになっています。こうなってしまうと我々は各ボタンを押した時に、テレビの内部でどのような処理が行われているか推測することが出来ません。つまりユーザが所望する動作のために、どういった操作をすればよいか推測することが難しくなっているのです。これは、洗濯機やエアコン、他の家電製品でも同様のことが言えるでしょうし、スマートフォンやパソコンに関しては述べるまでもありません。
システムが複雑化するにつれて内部処理をユーザが理解することが困難になってしまっているため、適切にユーザインタフェースをデザインしなければ、ユーザに取って非常に使いづらいシステムとなってしまうわけです。
と、非常に乱暴に説明してしまいましたが、これがユーザーインターフェースの重要性が高まっている大きな理由で、最近だとWebサイトやアプリ、スマートフォンアプリや、その他様々なデバイス、サービスに共通して言える事であると思っています。
しかし、そもそも使いづらいというのはどういう事なのでしょうか。使いづらい、または使いやすいユーザーインターフェースを提供する事によって、企業にどのようなデメリットやメリットがあるのか。または、適切なユーザーインターフェースを提供することによって、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。次回、これらの点について書いていきたいと思います。