はじめての聖地巡礼の回顧
東京に来た。
月曜日の朝の8時に。
私は19時開演のライブの為に、園路遥々この大都市へやって来たのだ。
と言っても、東京に来るのは4度目くらいで、もう慣れたものである。
そう、慣れたものなのだ。
完全に時間を持て余していた。
元々、観光に興味がない。
大都市特有の店舗たちにも興味がない。というか、金がない。
学生時代は新幹線でお昼くらいに来て、グッズ買って、ゆっくりカフェでもして、ライブ見てホテル泊まって新幹線で帰ったりしてた。
しかし、今回は金と時間がないので、夜行バスin夜行バスoutだ。
ライブまで11時間は優にある。
友人がいれば、適当に喋っていれば11時間なんてあっという間だ。しかし、平日のダブル夜行バスという苦行の為、同行を頼めなかった。
私にも人の心はある。
大都市、東京駅のど真ん中で夜行バスでしっかり寝不足の脳と、半分以下になったバッテリーのスマホを動かした。
そうだ。
聖地巡礼でもするか。
そんなこんなで、でっかい本屋に来た。
聖地巡礼云々以前より、インタ-ネッツカンパニ-を彷徨っていた際に見かけたこのどデカいジュンク堂に来てみたいと思っていた。
楽しみだ。
東京の建物はどれも縦に大きくてテンションが少なからず上がる。東京に住んでる人は皆3mくらいあるのかもしれない。
開店は10時。
東京に着いたのは8時10分。
電車で20分ほどかかるので、普通であればジュンク堂に着くのは9時前頃が妥当だろう。
しかし、私がジュンク堂に着いたのは10時5分。
迷った。盛大に迷ったのだ。
2時間も?
そう、2時間も。
しかし関係ない。
私は開店後のジュンク堂に辿り着いたのだから。
自動ドアをくぐり抜け、デデニ-ランドにも勝るとも劣らないタワーを横目にエレベーターに駆け込む。
半ばスキップだ。(気持ち)
タワーは後の楽しみに取っておこう。
飛び込み営業は高層階から行くものだ。
デカい本屋は高層階から行くものなのだ。
9Fに着いた。正直、お腹が空きすぎて記憶が曖昧だ。
すごい。
目に入るもの全てが初見で、知見がなくて、めちゃくちゃ目が滑る。
正直、何も分からん。
お腹が空きすぎてまともな思考回路が出来ない。
スタバに来た。
すぐそばにあった。
いつだってスタバはひとりきりの私に寄り添ってくれる。期間限定のストロベリー&ベルベットブラウニーモカを一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩ける。行こう。
気を取り直して、腹も満たして、満を持していざジュンク堂へ。
そうだ。思い出した。私はこの地へ聖地巡礼という名目で来たのだ。
探してた"ひとつなぎの財宝"があるのだ。
あ!
あった!!
ハ エ ト リ グ モ ハ ン ド ブ ッ クだ!
探してたのよ〜!
実際見ると思ったより解像度高〜!!
購買意欲が削げる〜〜!!!
購入する気満々だったが、虫の見た目がダメなので手に取る事すらできなかった。
近寄る事すら出来ない。
東京の人2人分は間を持って、写真に収めることが精一杯だった。
斜め下にある「おどろきダンゴムシ図鑑」からの圧に耐えられない。
ここまで来て買わないんだ?と私を責め立てる2つの正面についた目。それ怖いんだよ。やめてよ。なんで瞼がないんだよ。怖いよ。
私はその場を蜘蛛の子を散らす様に逃げ去った。
その後、4Fの「人文コーナー」で拷問とか処刑とか悪魔崇拝の文化の本を一通り眺めて満足した。
うん。これは地元に帰ったら買おう。
私はまだ夜行バスoutの予定がある。ここで荷物を増やす訳にはいかなかった。
ジュンク堂を後にし、電車に乗った。
プーの偽物みたいなクマの注意喚起があって、思わず写真に収めてしまった。
道中の電車はほとんど寝て過ごしたのだが、どうやらプーは夢じゃなかったらしい。
微睡みながら、プーの微笑みを眺めていたら駅に着いた。
お昼の時間だったので、吉そばを食べた。
一番王道みたいな名前のやつにした。
まだ腹の中にはストロベリー&ベルベットブラウニーモカが居たが、えいやと押し退けた。
この駅に来た理由は、吉そばともうひとつ。
この電信柱だ。
歩いて20分の距離にもうひとつあったので、それも収めた。
全部回ろうか悩んだけど、キモくなりすぎる可能性があるのと、時間と金に余裕がなかったのでやめた。
一度東京駅に戻り、ライブのグッズをしこたま買った。
今度はプーには出会えなかった。出会いとは一期一会なのだ。それとも、彼はやはり夢だったのだろうか。
ここから私はその足で、「みはし」という甘味屋さんに向かった。
迷った。
盛大に迷った。
1時間、東京駅内を回り回った。
ライブまで後2時間を切っていた。会場までは20分はある。甘味を噛み締める時間も欲しい。まだ寄りたい店もあった。
駅員さんの力を借りに借りて、私はなんとか「みはし」に辿り着いた。東京駅、案内板なさすぎ。
輝いてる。煌々と後光が見える。
季節のあんみつに栗あんみつがあったので、それに抹茶アイスをトッピングした。
アイスクリームが乗っていたのは誤算だった。
写真をよく見ていなかったし、メニューの「トッピング 抹茶アイス」の字面を見た瞬間に手を挙げていた。私は抹茶が好きなのだ。
写真では伝わらないだろうが、このあんみつ、想像の5倍はある。
東京の人はやはり3mはあるのだろう。
私には少し大きかった。
食べれど食べれど奥から寒天が出てきて溺死するかと思った。寒天溺死。新聞の片隅は彩れるかしら。
あと、私は寒天もあんこも好きではない。
でも美味しかった。
好きな人間が好きだという情報が累乗して、うまさと量は倍増した。
腹の中で吉そばが驚いていた。
そのまま東京駅内で、お土産を買った。精一杯の社交辞令をしなければならない。私はこれでも社会人だから。
そこで、目があった。
これを運命と呼ばずしてなんと呼ぼう。
バターバトラーだ!!
ピンと立った両足と身体。
そこから伸びる90度の腕。
くの字を描いた指先から踊る、それはまさに。
バターバトラーだ!!!
紅茶味を食べてみたかったのだけど、販売期間が終わっていて売っていなかった。なので、チョコレート味を買った。
王はプレーンをご所望かもしれないが、私はチョコが好きだ。この気持ちには勝てない。
運命を抱えた私は、ルンルンと軽い足取りでキャラメル専門店、「ナンバーシュガー」に向かった。
待ってろ、八丁味噌。
味のエンタメ、私も感じたい。
完売して閉店していた。
そりゃそうだ。平日とは言え、時刻は6時を回っている。
東京という大都市に住まう巨人たちの腹を満たすに、ナンバーシュガーは欠かせない。
しかし、私の懐にはハエトリグモハンドブックと拷問とか処刑とか悪魔崇拝の文化の本の屍を乗り越えたバターバトラーが居る。何も怖くなかった。
その後、ライブを楽しみ、私は夜行バスoutで帰宅した。
以上が、私の初めての聖地巡礼の回顧だ。
楽しみ方が無限大で、何をしても「好きな人が好き」という情報でバフが掛かるので良い方向にしか脳が向かなかった。
ただ、行動のひとつひとつの後にもの言えぬ"虚しさ"で頭がいっぱいになった。
幸福から虚無へのジェットコースター。
私はまたひとつ、大人になった。