南三陸グルメが続々! 宮藤官九郎×菅田将暉の泣き笑い移住エンターテインメント/映画『サンセット・サンライズ』/全国料理教室協会エッセイ『食べたら書きたくなって』(20)
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
コロナ禍を機に東京から南三陸に移り住んだ会社員の出会いと恋の物語『サンセット・サンライズ』(監督:岸善幸)は、新しい幸せの形を模索する人々を描いた、笑って泣ける“移住エンターテインメント”だ。
今なお残る東日本大震災の爪痕だけでなく、過疎化や空き家問題、地方特有の閉鎖性や生きづらさなど、さまざまな課題を提示しつつラブストーリーの側面もあり、タイトルが示すように前向きで誰もが楽しめる作品に仕上がっている。
時はコロナ禍まっただ中の2020年。東京の大手企業に勤務する西尾晋作は、リモートワークに切り替わったのを機に南三陸の宇田濱町で移住生活をスタートさせる。住居は空き家情報サイトで見つけた4LDKで家賃6万円という破格の“神物件”。大家の関野百香は町役場で働いており、空き家問題の担当になったので、手始めに自分がもっている空き家を提供したのだ。
大の釣り好きである晋作にとって、目の前が海である新居はまさに天国。閉鎖的で噂好きな地元住人に百香との仲を疑われるなど、移住直後は「怪しい都会もん」扱いされていたが、表裏なくポジティブな性格が伝わり、少しずつ受け入れられていく。
漁師である父親の章男と二人暮らしの百香は店子の晋作に対し、あれこれとサポートをしてくれる。しかも料理がうまく、とくに地元の食材を使ってつくる郷土料理の数々は絶品だ。そんな百香に晋作は自然と惹かれていくが、ある日、自分が借りている家にまつわる百香の壮絶な過去を知ってしまう。彼女の心の時計は“あの日”から止まったままだったのだ。
会社のリモート飲み会で新生活の様子を話した晋作は、社長から宇田濱でおこなう空き家活性プロジェクトの担当者に任命される。百香や町の住人の協力もあってプロジェクトは成功し、昇進した晋作は東京に戻ることになる。百香への想いと出世コースの板挟みになった晋作の選んだ道は──。
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原作は楡周平の同名小説(講談社文庫)。米国企業の日本法人で辣腕をふるっていた経歴が活かされたストーリーであり、ビジネス小説としても面白く読める。映画では宮藤官九郎が原作の魅力を損なうことなく大胆に脚色。得意の昭和的な空気あふれる泣き笑いコメディに仕上げているが、コメディ初挑戦である岸監督とのケミストリーによって行き過ぎることなく、温かいヒューマンドラマとして着地している。
楡が岩手県、宮藤が宮城県、岸が山形県と、原作者・脚本家・監督の3人とも東北出身者であるだけに、方言や東北人の気質、南三陸の空気感に圧倒的なリアリティがあり、安心して観ていられる。
主人公の西尾晋作を演じたのは、岸監督とは8年ぶり、宮藤作品には初出演となる菅田将暉。原作では落ち着いたキャラクターの(ややおじさんぽかった)晋作が、菅田の魅力と繊細な解釈によって好感度の高いイマドキのサラリーマンになっているのもいい。こういう愛され体質の青年なら保守的な地方でもうまくやっていけるだろうと思わせる説得力十分だ。
百香役には井上真央。抑えた芝居で生真面目な地方公務員になりきっており、「いるいる」感抜群の同僚・持田仁美役を振り切って演じた池脇千鶴と好バランスだ。そのほか、百香に想いを寄せる「モモちゃんの幸せを見守る会」メンバーである酒処「魚幸」店主のケン役に竹原ピストル、タケ役に三宅健、晋作の同僚役のひとりに藤間爽子、隣家の老女・茂子役に白川和子が出演。宮城県出身の中村雅俊が無口で無器用な章男役を好演している。
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本作の大きな魅力になっているのが、ロケ地となった南三陸の美しさと、ふんだんに登場する料理の数々だ。宇田濱は架空の町だが、撮影はおもに気仙沼と大船渡の周辺でおこなわれており、本作は南三陸の観光映画としてもグルメ映画としても堪能できる。
行く先々で晋作が食べる料理はすべて南三陸の豊かな海の幸と山の幸が使われており、どれも派手ではないが、実においしそうだ。
エゾイソアイナメの別名であるドンコと大根、豆腐、ねぎなどの具が入った味噌仕立ての「どんこ汁」、白菜の古漬けを魚のアラと酒粕で煮込んだ「あざら」、筆者も震災の数年後に気仙沼でいただいたサメの心臓「もうかの星」に、メカジキをグリルした「ハモニカ焼き」。そして重要な芋煮会のシーンに登場するこだわりの「芋煮汁」といった郷土料理のほか、規格外になるため都心に流通していない大きくて味のよいタラの芽の天ぷら、鮮度抜群のメバルと筍の煮付けやイカ大根、晋作が章男にふるまうヒラメのカルパッチョetc.これでもかと素朴な美食が登場し、まさに「飯テロ」状態。映画が進むにつれて激しくお腹が空いてくる。百香が感情にまかせて包丁を叩き、あっという間に仕上げてしまう新鮮ななめろうは酒の肴に最適だ(井上真央の見事な手元にも注目!)
イカの塩辛に日本酒を合わせようとした晋作を「これだから都会の人は」と嘲笑ったケンが「イカの塩辛には白ワイン」と断言するシーンは特に印象的だ。これは映画オリジナルだが、呑んべえなら間違いなく頭から離れなくなる裏名場面だろう。
ケンの口振りと晋作の驚く姿が忘れられず、思わず帰りにイカと白ワインを買い、さっそく試してみた。すると確かに大正解! まさかのおいしさに仰天した。生臭くなると思い込んでいたが、むしろ塩辛の味がなめらかになり、するするといくらでも箸とワインが進む。実に危険なマリアージュだ。
ほかにも試してみたい料理ばかりで、ついついパンフレットに並んだ写真を食い入るように見てしまう。この映画のおかげで、今年の冬は南三陸グルメにハマりそうだ。
※全国料理教室協会の公式サイトで連載中の食にまつわるエッセイ『食べたら書きたくなって』20回(2025年1月初出)を転載しています。
(作品情報)
『サンセット・サンライズ』
1月17日(金)全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか
脚本:宮藤官九郎 監督:岸善幸
原作:楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫) 音楽:網守将平 歌唱:青葉市子
製作:石井紹良 神山健一郎 山田邦雄 竹澤浩 角田真敏 渡邊万由美 小林敏之 渡辺章仁
企画・プロデュース:佐藤順子 エグゼクティブプロデューサー:中村優子 杉田浩光 プロデューサー:富田朋子
共同プロデューサー:谷戸豊 撮影:今村圭佑 照明:平山達弥 録音:原川慎平 音響効果:大塚智子
キャスティング:田端利江 山下葉子 美術:露木恵美子 装飾:松尾文子 福岡淳太郎 スタイリスト:伊賀大介 衣装:田口慧 ヘアメイク:新井はるか 助監督:山田卓司 制作担当:宮森隆介 田中智明 編集:岡下慶仁 ラインプロデューサー:塚村悦郎 製作幹事:murmur 制作プロダクション:テレビマンユニオン 配給:ワーナー・ブラザース映画 Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員
会/ 上映時間139分
[公式HP]sunsetsunrise-movie.jp[公式X /公式Instagram] @sunsunmovie2025
[公式ハッシュタグ] #映画サンセットサンライズ
⭐︎本予告映像 https://youtu.be/b1NyChznXPc