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個室から大部屋へ(母の難病#11)
【10月16日】
大学病院の個室に入院していた母は、この日大部屋(4人部屋)に移った。
新規で入院してくる重症の患者さんが個室に入るためだった。
母も重症と言えば重症ではあるが、検査も治療もほぼないし、食べるための介助もいらないし、自分からナースコールを押すこともない。言い方は悪いが手がかからないから大部屋でも問題ないのだろう、と想像した。
せっかく音楽に反応することが分かったのに、音楽をかけられない。
それだけが残念だった。
この日は両手のミオクローヌスが激しかった。自分の手が意に反して大きく動き続けるのは、疲れるだろう。
5日前、「脳波検査の結果から、ほんのわずかながらヤコブ病ではなく急性脳炎の可能性も否定できない」と主治医から言われた。それを受けて、前日から3日間のステロイド点滴治療が始まっていた。何か変化があるといいのだが…2日目のこの日、特に何かが良くなったようには見えなかった。
大部屋のベッドはカーテンで仕切られ、閉塞感が否めない。
母のうつろな目や視線が合わない様子が、部屋の様子と相まって状態がより深刻に見える。
本当はクスッと笑えるユーモアを交えてこのnoteも書きたいのだけれど、とにかく日々を追っていくことに精一杯だ。受け止めることに慣れてきた、と思っていた。しかし、慣れるというよりは、いろんなことを過度に感じないように自分を守っているような感覚でもある。
「今日は特によきニュースはなさそうだ」と15分の面会時間を終えることにし、母にひと声かけた。カーテンを閉め、帰ろうと少し歩き出したところで忘れ物に気づき、母のベッドのところまで戻った。すると、さっきまで私に身体を向けて目を開けていたのが、反対方向を向いて寝に入っていた。
誰かが、娘がそこにいることを分かっていたのだろうか。
誰もいなくなったことを感じて、眠ろうとしたのだろうか。
まだ、母は今の世界に生きている、と思いたい。