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抱きしめたいんだけど(母の難病#8)
【10月2日】
母はどんどん発語が減ってきていた。他者に支配されているかのように忙しく喋っていた勢いは、確実に薄れている。それに比例して上半身は硬直し、ミオクローヌス(ぴくつき)が明らかになってきた。
顔は引き攣り、ひょっとこのような表情をしている。これが、意に反してそのような表情になっているのだとしたら、結構苦しいし痛いのではなかろうか。
そういえばまだ母がよくしゃべっていた頃、頻繁に「膝が痛い」と言っていた。脚にミオクローヌスの症状が出ていたときだったので、やはり意に反する動きは不快だし痛みがあるのだろう。
そんなことを思い出し、撫でるように脚や手をさすったり手のひらを弱くマッサージしてみたりした。始めは驚いたような動きと表情をしていたが、そのうち気持ちよさそうにまどろんでいた。
この日は、母に呼びかけるもイマイチ反応に乏しく、言葉にならないひとりごとを呟いていた。
視線は定まらないことが多く、目を大きく見開いて、何か見えないものを見ているようだった。
もうすぐ面会時間の15分が終わろうとしていたところで、
「お母さん、時間だからそろそろ帰るね」
と声をかけると、
「時間だぁ〜〜?」
と母が返した。
おぉー、今日初めて聞き取れた言葉である。
「そうそう、面会が終わる時間なの。また来るからね」と私。
すると、「みっきー?抱きしめたいんだけど」と母が言った。
何とも言えない気持ちになり、寝たままの母を軽くハグしたが、ハグしたときにはもう、母は別の世界を見ていた。
思い返すと、私を認識して話をした最後の会話だった。