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言葉を誤まって書かないためには日常会話を大切にする/作家の僕がやっている文章術158

間違いの言葉を、うっかりと文章に書いてしまうことは少なくないようです。

<文例1>
美樹香月さんは、文章の書き方を教えてくれて、挙げ句の果てには手料理のチキンソテーを私にご馳走してくれました。

文例1を正しく書き直します。

<文例2>
美樹香月さんは、文章の書き方を教えてくれて、その上さらには手料理のチキンソテーを私にご馳走してくれました。

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「挙げ句の果て」の意味は「その上さらに」と同義なのですが、悪い結果が出たときや、悪い結果が予想される場合に使います。

「さらに悪いことには」とか「あきれたことには」とか「破綻の末路としては」などのニュアンスで使われる言葉です。

「田中君は無断欠勤し、連絡もせず、挙げ句の果てに、退職願を郵便で送りつけてきた」のように使います。

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<文例3>
彼女の優しさに甘んじていた僕は、二人で暮らす部屋を散らかし、僕の趣味のガンプラで棚を埋め尽くすなんていう迷惑をかけていて、気がつかなかった。

文例3を正しく書き直します。

<文例4>
彼女の優しさに甘えていた僕は、二人で暮らす部屋を散らかし、僕の趣味のガンプラで棚を埋め尽くすなんていう迷惑をかけていて、気がつかなかった。

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「甘んじる」とは、 与えられたものをそのまま受け入れる。仕方がない、と思って我慢するという意味で使う言葉です。

「貧しい暮らしに甘んじる」とか「時給950円に甘んじる」などと表現する言葉です。

その一方で、満足する。楽しむという意味もあります。

「安い酒に甘んじる」とか「閑村の中学教師に甘んじながら、休日には小説をコツコツと書いていた」などと表現すると正しい使い方になります。

決して「甘える」とか「依存する」の意味はありません。

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<文例5>
自己流で文章を学んでも、ライターとしては路頭に迷ってしまう。

文例5を正しく書き直します。

<文例6>
自己流で文章を学んでも、ライターとして、どう書けば良いのかを迷ってしまう。

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「路頭に迷う」は、お金がなくて生活に困る。
あるいは、住む家がなくて困る。の意味です。

「どうして良いか分からない」の意味で書きがちですが、言葉の意味としては「生活に困る」なのです。

<文例7>
ヤクルトスワローズの村上宗隆選手の打った打球は、あわや57号ホームランになるところだった。

文例7を正しく書き直します。

<文例8>
ヤクルトスワローズの村上宗隆選手の打った球は、あと少しで57号ホームランになりそうだった。

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「あわや」は、危うくの意味です。

悪いことが起きそうなときに使います。

望ましい結果まであと少し、の意味では使いません。

文例7の「あわや」は、ヤクルトスワローズの対戦チームからみて、使える言葉かもしれませんが、一般的には誤用とみなされます。

さらに「打った打球」では、二重表現です。

<文例9>
台風の当たり年だった2022年は、全国に被害をもたらした。

文例9を正しく書き直します。

<文例10>
台風の多かった2022年は、全国に被害をもたらした。

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当たり年は、良・吉・善などのポジティブな意味を表すときに使います。

文例9の使い方では、台風の被害を喜んでいる表現と受け取られかねません。

<文例11>
美樹香月さんの文章術を他山の石として、活用したい。

文例11を正しく書き直します。

<文例12>
美樹香月さんの文章術を参考にして、活用したい。

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「他山の石」とは、よその山の粗悪な石の意味です。

「他人のつまらない行いでも、自分の実力を磨く助けになる」という意味で使います。

「A社の倒産を他山の石として、我が社は無計画な販路拡大には乗り出さない方針とする」などと使います。

<文例13>
則子は、亘がスパゲティーをズズーッとすすり上げて食べる様子に眉をしかめた。

文例13を正しく書き直します。

<文例14>
則子は、亘がスパゲティーをズズーッとすすり上げて食べる様子に顔をしかめ(あるいは、眉をひそめ)た。

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じつは、ここに挙げた誤用文は、すべて私が目にしたものなのです。

=文例1=
美樹香月さんは、文章の書き方を教えてくれて、挙げ句の果てには手料理のチキンソテーを私にご馳走してくれました。

これは、女性ライターKさんから受け取ったメールに書かれていた文章です。

=文例3=
彼女の優しさに甘んじていた僕は、二人の暮らす部屋を散らかし、僕の趣味のガンプラで棚を埋め尽くすなんていう迷惑をかけていて、気がつかなかった。

これは、男性ライターのM君が書いた小説のなかの1文です。

M君は、将来は小説家を夢見て、副業ライターを続けているのです。

=文例5=
自己流で文章を学んでも、ライターとしては路頭に迷ってしまう。

これはM君が、私にメールで送ってきた文章です。

ライターとしての実力を疑い、評価を下げてしまう文章でした。

KさんやM君に、仕事を紹介するのは、今後はやめておこうと心に決めたものです。

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言葉の誤用がある文章を書いてしまう理由は、話し言葉にあります。

日常会話で、使ってしまうのです。

私たちは、耳で聴いた言葉を覚えます。

読む言葉よりも、耳で聴いて「何となく、こんなニュアンスの言葉なんだな」とか「こんなシーンで使う言葉なんだろうな」と、記憶してしまうのです。

「出る釘は打たれる」は、正しくは「出る杭は打たれる」ですし「青田刈り」は、正しくは「青田買い」です。

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「くい」を「くぎ」と聞き間違えたのでしょうし「かい」を「かり」と聞き間違えたのだと思われます。

M君も「路頭に迷う」は「困ってしまう」のニュアンスで使う言葉なのだろうと記憶してしまったのだと考えられます。

言葉の誤用は避けたいものです。

<文例15>
昨日は弊社のプレゼンテーションにおいでいただき、ありがとうございました。挙げ句の果てに、見積もりをご要望くださり、感謝にたえません。

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文例15のような文章をもしも見込み客に送ってしまったら、商談は破れ“挙げ句の果てに”悪評が世間に広まってしまうかもしれません。(笑)

何となく、そう覚えている言葉は、疑ってかかって、辞書を引きましょう。

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日常会話の言葉の精度をあげるのも、お勧めです。

友人や知り合いと会話をする際に「えっ?」と聞き返されたら、それは日常会話の言葉の精度が低いからかもしれません。

語彙力の豊かな文章は、誤用を書かない文章なのです。


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