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「あなたからダンスを紡ぐ」

2024年、青森県内5つの美術館が連携しAOMORI GOKANアートフェス2024が開催されました!


他の県をみても、こんなに美術館が充実しているところはないんじゃないか?と青森を推せる一つのポイント。もちろん5館の他にもまだまだあるのですが…!

そして嬉しいことにお声がけいただき、この大きなプロジェクトの一環に関わることになったのです。

八戸市美術館にて「エンジョイ!アートファーム!!

八戸市美術館で行われたプロジェクトの一つを任せていただくことになり、どういうことをしていこうかと担当の学芸員・大澤さんと作戦会議を行っていきました。美術館のプロジェクトで大概は美術作品が並ぶ中、パフォーマンス部門で何ができるのだろう?人を集めたいわゆるWSのようなものもイマイチぴんとこない。TikTokとかでよく短いダンス流れるよね〜というたわいもない話から、誰か分からない画面の向こう側の人に向けてというよりは目の前の人に向けて踊るとか考えることがしてみたいな、それを記録としても残せるようにとかそんな話で少しずつ肉付けして生まれていったのが「あなたからダンスを紡ぐ」というプロジェクトでした。


「あなたからダンスを紡ぐ」始動

実際の流れとしてはこうです。

1、その日来てくださった方の話を磯島が聞く(40分前後)
2、聞いた話から気になったキーワードを選出し、それに振りをつけていく(40分前後)
3、5分程になった動きのまとまりをお披露目する(踊る)
4、振り返り

という約2時間の内容。
参加してくださった方が一緒に踊りたい!となれば、もちろん一緒に動きを考えたり踊ったりもする。
なかなかハードな試みだし、まず参加してくれる方はいるのか…という不安もありつつ広報は動きだし、そしていよいよ始まっていったのでした。

話を聞くことの面白さ、そして大変さ

初回4月13日(土)に来てくださったのは、2組の小学生とそのご家族。
どちらも美術館に縁あり、そしてわたし自身もこれまでご一緒したことのある方々だったので、少しホッとしながらメインはお子さんで話を聞いていくことに。
わたしも小学5年と3年の子どもが居るのですが、じっと子どもの話に耳を傾けるってそういえば最近無かったかも?と思うくらい、彼女たちの話をしっかり聞いていく。
いや〜話が尽きない。学校の話、家での話、ペットの話、公園での話、友だちとの話、お家の人の話。

4月13日午後の回

いつまでも話が続きそうだけど次にいかなくてはならないので一旦話にピリオドを打ち、いよいよキーワード選出へ。

どれを選ぶかはわたしの独断になってしまうんだけど、素敵な話の中から印象的だったエピソードを選び、それに動きをつけていく作業。
約40分くらいの時間で振りを作らなくてはならない。とはいえ、締め切りが明日になったら良い動きが出てくるのかというとそういうわけでもないので、話し合えたホットな状態の間に動きを半ば強引に考えていく、同時にキーワードをどの順番で並べていくのが良いかも考えながら、お披露目までの時間をあたふたと過ごす。

館内アナウンスでも呼びかけられお披露目の時間

なにぶん、このときに考えて踊るのですから全てが舞台のようには持っていけません!よって…

このように近くにあるモニターにカンペ代わりにして順番を確認しながら踊ったのでした笑

他の展示を見に来ていた方々が館内アナウンスを聞いてやってきて見てくれる!それもありがたいことですが、何よりわたしとしては参加してくれた彼女たち、そしておうちの方々の感想はどのようなものなのかが気になるところ。
踊り終わって感想を聞いてみると、ところどころの動きと話が繋がったようで楽しんで大切に見てくれていることが分かり、わたしとしても安堵。
しかーし、思った以上にこの2時間がずしっとくるではないか!
休憩もしっかり休まないと、そして2組終わった後にズドーンとくる疲労…
振りを考えることや踊ることより、人の話を集中して聞くという行為が結構大変なことだと思い知ったのでした。

内容を改善していく

1週間後にまたあるので改善できることはあるだろうかと大澤さんやスタッフさんと話す。
まず場所を変えてみようかと開放感のあるところへお引越し。とはいえ、動きを見てもらうのにあまり他のものが干渉しないようジャイアントルーム自慢の安東陽子さんデザインカーテンでパフォーマンス時は仕切りをする。

この日は三兄弟の親子と

そして初回時はわたしだけに分かるようにカンペ扱いで置いていたキーワードを見えるところに置き、ダンスを見る人はキーワードを見たり、ダンスを見終わった後に答え合わせをしたり、それぞれで見たいように見て過ごしてもらうことに。

キーワードを表しているというよりも

そしてポイントの一つでもあったのは、キーワードをどのように動きに転換していくか。
そもそもわたし自身が言葉を用いて振付や演出を行ってきたので、ダンスと密接に常にあった言葉との関係をこうして大切に向き合えることができる今回の企画はとても貴重でした。
実際出たキーワードは実に様々なもので、例えば、クジラ、熱帯魚、公園のブランコ、バドミントンなど。ここではわりと具体的な言葉が出ましたがそれを説明するような動きでは面白くないので、その言葉の背景が想像できるようにしていくのが大切。あとは具体的にしてみるにしてもバドミントンの動きの肘の動きを誇張させるとか、霞に包むじゃないですが「分かられたくない」というのがダンス創作の根底にあるので、今回も動きのきっかけとしてクジラの大きさを体全体で測ろうとするとか、公園のブランコの地面の質感を感じてみるとか、できるだけ見ている人たちにも創造を委ねたい思いで動きを作っていきました。

ダンスしている方から聞く話はまた興味深い

さらに、最初の頃は話したことを忠実にキーワードに起こしていたのが、回を重ねていくうち話のニュアンスは残したままより動きに転換しやすいキーワードにしていったりもしていきました。ほんの些細なことですがダンスに置いて静かな出来事は大きな影響を及ぼしたりします。
そして選ぶ言葉の数も減らしていき、1つの言葉の動きにより時間をかけて行く方が良いという方向も見つけました。
話を聞くことにも慣れて疲れることは減っていき、話をすることに夢中になっていると大澤さんから「そろそろ時間です」と腕時計を示されることしばしば笑

たまたま来館した人が目撃者として立ち会ってくれた

大人は現実的な世界で生きている

最初は参加してくれる人はいるのだろうかと不安だったプロジェクトも6月に入った頃にはありがたいことに満員に。小学生から上は還暦の方々、最後の日はマダムまで!幅広い年齢層の方が来てたくさんの話を聞かせてくれたのだが、キーワードを選ぶときにおや?っと感じたのが、社会人の現実的な言葉の数々。ワークバランス、世間の目、料理は作業、外と中の区別、確かなモノなどなど、なんていうんだろう。動きにはもちろんしていけるのだけど、子どもたちから出る言葉のさらに後ろに広がるファンタジーのようなものが少ないものだなぁとあるときふと思ったのです。
現実をいま必死に生きている、ということなのか。。。

そして遠くからやって来てくれる

市内あるいは近郊から参加してくれていたのが、ある時から弘前から盛岡から札幌から宇都宮から、はたまた愛媛から!と遠方からわざわざこのプロジェクトのためだけに来八してくれました。こんなプロジェクトがあるなんて来るしかない!と意気込んで来てくださった方々の熱意たるや、企画した大澤さんと喜んだことは言うまでもありません。ありがたい!

盛岡からわざわざ参加してくれた子は、運動会の作文を持ってきてくれた
ジャズダンスをやっている姉妹は想像力もたっぷり
愛媛から来てくださった方は経歴も活動もすごかった
話すことがとめどない実は仙台に住んでいた頃から知っていた彼女も宇都宮から
まさかここで一緒に踊ることになるとは!
いろんなことがあった人生を明るく話してくださり、手作りの衣装を持参してくださった札幌の方
初めての高校生!わたしが授業を担当している高校の生徒が参加
大ラストの回は地元で活動しているマダムたち、話が尽きない。。。笑
いつもアフロを被って踊っているそうでそのアフロを借りてわたしも踊りました!

長いようであっという間に終わってしまった「あなたからダンスを紡ぐ」は、計15組の方々に参加していただき、それぞれに密度濃い時間を過ごしました。そして短い時間で良いダンスを見せれるところまでは持っていけなかったので、総集編としてキーワードを新たに選び並べ直して8月4日にダンスパフォーマンスとして発表したのですが、それはまた追って報告を。

パフォーマンス


振り返ると

プロジェクト進行中に、そういえばわたしは話すのが昔から好きだったことを思い出しました。高校生のときにゴミ捨てに行けば用務員のおじさんと、保健室に行っては養護教諭の先生と。

今回の時間を経て、もっと多くの人から話を聞きたいと思うようになりました。たった15組の方にもドラマがあったように、この街にも日本国内でも世界中にも多くの方の人生=ドラマがあると思うと聞いてみたいし、それがあわよくばダンスにできるなら、こんな素敵なことは無い。
どこかにそんな場所は無いかなぁ〜

これまでの映像が美術館で会期中流れていて、どのダンスも振付が様々で同じものを見ないですね、といった感想をいただいたのですが、これはわたし1人が考えたわけではなく、それぞれの人生の言葉を紡いでいった結果の時間で各回違うものになったのは当然です。いま思い返してもまだ胸が熱くなります。

このプロジェクトに関わってくださった皆さま、とりわけ八戸市美術館のスタッフの方々、そして伴走してくれた大澤さん。
素敵な時間をありがとうございました。

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