パリ逍遥遊 シャンパーニュ・ゴドメとブドウ栽培
ランスの市街を抜け一路南へ。モンターニュ・ド・ランスの山のふもとで左折、以前紹介したシャンパーニュ街道に入る。Rilly-LaMontagne村を抜けてから、ブドウ畑・村・ブドウ畑・村・ブドウ畑の繰り返し。
しばらく車を進めてゆくと、Moulin deVerzenayなる大きな風車が現れる。この周りは大手シャンパーニュメーカーのマム(Mumm)と契約している数々のブドウ畑が連なる。見えるところは全てマム、風車もマムのもの、その規模に圧倒される。風車を通り過ぎると、今回の目的であるベルズネイ(Verzenay)村に到着だ。
訪問するドメーヌは、シャンパーニュ・ゴドメ(Champagne Godmé père et fils)。パリのサロン・ド・ヴァンに出店していたドメーヌで、パリでの試飲の際にドメーヌを訪問しても良いか?と聞いたらOKだったので、「来ちゃった♪」的なノリで訪問したわけだ。
ベルズネイ村の端、ここで村が終わる境界線にポツリとドメーヌ・ゴドメがある。ドメーヌと言っても一軒家に付随した大きめの納屋がある程度で、思わず一度通り過ぎた。新潟あたりにありそうなコメ農家とさほど変わらない。
シャンパーニュ・ゴドメの素っ気ない看板
一応看板が出ているのでピンポンを押してみると、サロン・ド・ヴァンで見かけたおじさん、ユーグ・ゴドメ氏が登場。祖父の代からシャンパーニュ作りをしているレコルタン・マニピュラン(ブドウ栽培業者、兼、醸造業者)だ。Godmé père et fils(父と子)という名前だが、兄ユーグと妹サビーネの二人で経営している。
ゴドメのようなレコルタン・マニピュランは、ブドウ栽培からシャンパーニュ醸造まで全ての工程を自分でコントロールできるため、自らの哲学をシャンパーニュに直接注ぎこめるのが長所だ。そのため、職人気質の気難しい人物をイメージしがちだが、ユーグ&サビーネ兄妹は気さくな農家のおじちゃん・おばちゃんと言った感じで、こんな遠いところまでよく来たねぇ、と迎えてくれた。(例によって、「ここのシャンパーニュを飲むために、わざわざ日本から来たんだよ!」と返す。)
さて、ゴドメの特徴はビオデナミにある。ビオデナミ、英語だとバイオダイナミックは、自然農法とか自然派ワインとか訳され、要するに、化学肥料や農薬などは使わない昔ながらの農法への回帰を意味するが、そのカテゴリーは多岐にわたる。ビオデナミ信望者には、天体の運行と植物の生育を関連づけた農業暦を用いた栽培を行う神がかり的(疑似科学的?)農家もあるが、ゴドメは、例えば、土壌に窒素や鉄分を供給するためにイラクサを使うなど、「一般的な」昔ながらの農法を採用している。
ビオデナミによって醸造されたシャンパーニュ・ゴドメは、野性味溢れる、しかし情熱が伝わってくる作品だ。マム、モエ、ブーブクリコなど所謂大手メーカーが、品質の一定したピカピカな「製品」であるとすれば、ゴドメは一点ものの「作品」と言ったところ。
今となってはみることができない、分裂前のゴドメ
ベルズネイ近辺で栽培されたシャルドネに由来する、果実味の厚みと酸味が豊かでいて、かつビオデナミの綱渡り的な儚さが伴うシャンパーニュに仕上がっており、ユーグ氏を眼の前にして醸造された泡を味わうと、シャンパーニュがより身近に感じ、大手メーカーを飲む時とは全く違う場所に連れて行ってくれる。
さて、このユーグとサビーネ、私が訪問した際は仲良くやっていたのだが、最近2つに分裂したらしい。ユーグ・ゴドメは、前述のビオデナミを踏襲しているのに対し、サビーネ・ゴドメの方は先々代から続く製法を踏襲しているとのこと。前者が自然への回帰なのに対し、後者はご先祖様への回帰と言ったところか。
ビオデナミは「自然派」とか「昔ながら」と言うと聞こえは良いが、ブドウの手入れに手間ひまかかり、農薬を使わないのでブドウが病気になる場合も多い。育っても品質の良いブドウになるかの保証もなくリスクが大きい。一方で、最近はフランスでも健康志向のため、有機農法を用いたワインが流行っているのも事実。
私としては、お酒ってそもそも健康を害するものだから、ワインやシャンパーニュって美味ければ良いんじゃない?わざわざ健康志向にならなくとも・・・と思っているが、ユーグとサビーネの選択は、どちらに軍配が上がるか?それは数十年後のお楽しみである。
訪問客にサーブをするサビーネ