Margo-物語と糸- #43 |『若草物語』を染める
Margoの物語の糸、1年以上空いてしまいましたが『若草物語』を再開しています。ふたつめの糸は「メグ」。美人で評判のマーチ家の長女です。
長女のメグ(マーガレット)は、たっぷりした褐色の髪と大きな瞳、白い手と優しい口もとをしており、物語のなかで何度も「美しい」と称賛される女の子です。第一部では、家族がお父様と三女ベスの病気という大きな試練を乗り越えたのち、メグとブルックさんの初々しい恋が始まってフィナーレとなります。
結婚式のシーンは、第2部の初め。第1部の物語から3年の月日が経っています。第1部の冒頭で「貧乏って、ほんとうに嫌ね」と呟きドレスや手袋など欲しいものがたくさんあった少女がこんな風な結婚式を迎えるとは感無量で、メグの成長を感じずにはいられません。そんな慎ましく清らかで、可憐な白い花のようなメグをイメージして、毛糸を染めました。
どこまでが若草物語?
人は『若草物語』と聞いて、どこまでのお話を思い浮かべるでしょう。日本では少女時代にあたる第1巻が有名で、幼い頃に読んだそれが『若草物語』だと思っている人も多いと思います。わたしもごく最近までそう思っていました。
しかし本国アメリカでは、日本の第1巻にあたる少女時代を第1部、日本の第2巻にあたる青春時代を第2部として、1部と2部合わせたものを『若草物語』だとされているようです。今回テキストに選んだとても素敵な装丁の講談社版単行本も『若草物語 I &II』となっており、少女時代から青春時代までを一冊で読むことができます。
第1部だけ読むのと第2部までを通貫して読むのでは、当たり前ながら印象が全く変わります。少女の頃にも大事件がたくさん起きてみんな反省したり成長したりするわけですが、それは「成長譚」といった趣き。しかし、青春編の第2部では姉妹それぞれの恋愛模様がていねいに描かれるので、「リアルな大人の物語」の様相を呈してくるのです。
第2部で姉妹それぞれがどんな運命を辿るのか、未読の方はぜひ読んで欲しいです。そしてエイミーの結婚相手がなぜ「彼」になったのかについて、ぜひわたしと考察を語り合っていただきたいです(笑)
ちなみに『若草物語』(原題は『Little Women』)には『Little Men』『Jo's Boys』という続きがあり、日本ではそれぞれ『第3若草物語』、『第4若草物語』として発行されています。ジョーが開いた学園の男の子が主人公になり、姉妹たちは脇役で登場します。
メグの新婚生活でわかること
若草物語の第2部は心温まるメグの結婚式で始まりますが、その後の作中でも新婚であるメグの夫婦生活が何度か描かれます。料理を大失敗してボロボロになってしまった日に夫が予告なく友だちを連れて帰ってきて喧嘩になったり、子どもの世話に追われて夫を放ったらかしにしたせいですれ違い生活になってしまったり。ついつい見栄をはって無駄遣いをしたせいで、家計がピンチになってしまう事件もありました。
新婚さんらしくて微笑ましいといえば微笑ましいのですが、これが1869年に発表された物語であるのを思い出すと、わたしはちょっと戦慄を覚えもします。150年も前の新婚夫婦に起きる事件や夫婦が抱えている問題が、現代の日本で起きていることと「全く同じ」だからです。女性の幸せも夫婦関係も、人はこんなにも変わらないものなのでしょうか。
実は、これこそが若草物語を名作たらしめる要素の一つなのかもしれません。青春編はもちろんのこと第1部の少女編でさえも、女の子が喜ぶ少女小説の顔をしながら実は大人も楽しめる普遍的な人間ドラマを描いている。だからこそ、若草物語はいつの時代にも多くの人々に愛され続けているし、かつて少女だった大人のわたしたちも楽しく再読できるのです。
物語のなかでメグは何度も「美人」であると表現されています。しかし美人という以外にあまり特徴がなく凡庸な印象がするのも事実です。それは、メグが堅実に慎ましく良妻賢母の道を歩んでいるからこそ。3人の妹たちがあまりに個性豊かであるためついそちらに目がいきますが、実はメグは4人姉妹の中で一番わたしたちに近いリアルな登場人物なのかもしれません。