Margo-物語と糸- #4 |『銀河鉄道の夜』を染める 3
Margoが染めた『銀河鉄道の夜』の糸と、物語について。
今日の糸は「星祭の夜」です。
空気はすみきって、まるで水のように通りや店の中を流れましたし、街灯はみなまっさおなもみやならの枝でつつまれ、電気会社の前の六本のプラタナスの木などは、中にたくさんの豆電燈がついて、ほんとうにそこらは人魚の都のように見えるのでした。子どもらはみんな新しい折りのついた着物をきて、星めぐりの口笛を吹いたり、「ケンタウルス、つゆをふらせ。」とさけんで走ったり、青いマグネシヤの花火をもやしたりして楽しそうに遊んでいるのでした。(『銀河鉄道の夜』より)
降りそそぐ星と幻想的な光に満ちた祭
『銀河鉄道の夜』には宇宙の素敵な描写がたくさんありますが、わたしが一番好きなのは、実は地上で行われている星祭「ケンタウルス祭」の様子です。
星祭が行われるのは、8月中旬のペルセウス座流星群の時期ではないかと言われています。だとしたら、〝ケンタウルスがふらすつゆ〟は、流星なのかもしれません。
流星が降りそそぐ夜、降る星と呼びあうように子供たちが持つ花火が青い閃光をほとばしらせる。街には烏瓜をくりぬいて光をいれた行灯、人魚の都を思わせるあおい豆電球がちらちらと輝く。
この糸は、そんな星祭の夜の、青や緑、黄色の幻想的な光をイメージして染めました。
何故ケンタウルス祭なのだろう?
わたしには『銀河鉄道の夜』でつねづね不思議に思っていることがありました。それは「この星祭は何故ケンタウルス祭という名前なのだろう?」ということです。
ケンタウルスといえば、上半身が人間で下半身が馬の怪物としておなじみです。しかし星座のケンタウルス座は、南のほうにありすぎて、わたしたち日本人にとってあまり親しみある存在ではありません。なのになぜ、賢治はこのうつくしい星祭の名前をケンタウルス祭としたのだろうか。
しかし、『[銀河鉄道の夜]フィールド・ノート』という本で天の川にそった夏の星座図を見たときにその謎は解けました。物語に出てくる星座を、銀河鉄道の路線に沿って琴座、白鳥座、鷲座と順に辿っていくと、最後の方に出てくる蠍座のとなりに、ちゃんとケンタウルスはいるのです。そして、新潮文庫の解説にも書かれたとおり、ジョバンニたちが銀河鉄道の旅の終わりで近づく「南十字」も「石炭袋」も、ケンタウルス座の懐に抱かれているのでした。
白鳥座の北十字を出発した銀河鉄道の終着駅は南十字ですから、乗客たちは最後はケンタウルスの元に行き着くことになる。子供たちが祭の夜に川に流す烏瓜の行灯は精霊流しを思わせますが、川に流されて霊界へ帰る御霊も銀河鉄道で旅する死者たちと同じでしょう。今生を離れ旅する魂がたどりつく場所がケンタウルス座だからこそ、祭の名前もケンタウルス祭となったのではないかと思います。
星めぐりの口笛はどんなメロディなのか?
ところで、物語のなかで何度も出てくる「星めぐりの口笛」というの、気になりますよね。銀河鉄道の旅でもジョバンニやカンパネルラが何度も吹いていますが、どんなメロディなのでしょう。漠然と想像していたのですが、実はモデルがあるのだそうです。賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」です。
検索してみると、聞くことができました。
賛美歌を思わせる静かで心に染み入るメロディで、歌詞も素敵です。
あかいめだまのさそり
ひろげた鷲のつばさ
あおいめだまの子犬
ひかりのへびのとぐろ
オリオンは高くうたひ
つゆとしもとを落とす
作詞作曲までしてたとは。賢治は天才だなあ、ほんとうに。
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