ケアンズへの道14
キュランダ鉄道は改札もなく、検札もない。お兄さんに渡されたチケットは記念乗車券みたいなものだ。
早めに客車に乗り込む。客車もレトロ感満載。ありがたいことにウォーターサーバーが置いてあった。チケットに書いてある番号を探して、三人掛けの赤いビニールの座席に娘と向かい合わせに座る(われわれの座席の横には人が座ってこなかった)。
英語のアナウンスが聞こえてきたが、娘は「しゃべっているの日本人やで」と言う。
しばらくして赤い制服を着た中年の日本人(多分)女性が乗車人数の確認に来た。
キュランダ鉄道で日本人(多分)が働いていることが不思議に思える。
汽笛が鳴り、列車はゆっくりと動き出した。
いつの間にか駅員や売店の人が出てきて手を振っている。
駅舎が見えなくなっても速度は速くない。なにせケアンズ駅まで32キロを2時間弱で結ぶのだ。
車窓からしばらく熱帯雨林を眺めていると、バロンフォールズ駅に停まった。ここでは滝が眺められるので10分間の停車だ。みんなこぞって車外に出る。こんなに乗っていたのかと驚くほどの人数である。
遠くに見えるバロン滝は壮大だ。鉄柵にもたれて見ていると、隣りにいた白人男性が「ほら」と鉄柵を指差す。そこには半透明の緑アリが群がっていた。
グリーンアントと呼ばれるアボリジニが食用とするアリだ。アスコルビン酸が豊富で爽やかな酸味があるという。食べてみようと思ったが、なんだかかわいそうでやめておいた。もう一種類の赤っぽいアリはハニーアントと言って、甘さの中に酸っぱさが混じって絶品らしい。
すぐそばの小高い丘が展望台のようになっていて、みんなそこで写真を撮っている。様々な国の人が滝を眺めていたり、家族や友人と写真を撮っている中にいると、ほのぼのとした感情になる。
汽笛が鳴った。乗車の合図だ。
展望台にいた人たちも急いで列車に乗る。
またしばらくすると大雨になった。並行する道路をヘルメットをかぶった若者がずぶ濡れになって自転車をこいでいる。窓側の乗客が「がんばれ」と応援する。若者は必死にペダルを踏んでいたが、ついに抜き去られてしまった。
車窓を開けていたので、通路は雨でびしょびしょになってしまった。日本だったら乗客が大慌てで窓を閉めるだろう。オーストラリア人(観光列車だからそうでない人もいるだろうけど)のおおらかさを感じ、いいなあ、と思う。
風景を眺めていると、突然30匹ほどのカンガルーの赤ちゃんが線路わきの芝生にいるのが視界に入った。あっ、と思う間もなく視界から消えていった。二度目の幻視か(娘は寝てた)。
列車は二番目の停車駅、フレッシュウォーター駅に到着。ここで大勢の人が降りていった。
名前の由来は鉄道工事の人たちがここで真水を飲んだからだそうだ。この駅は車両を改造したカフェがあり、人気らしい。
あと少しで終着駅のケアンズに到着するという時に列車が緊急停止した。
「あれっ?」