タクシードライバーと差別意識「タクシーガール」を読んで
都内を疾走するシングルマザーのタクシードライバー、リカ。様々な人間がタクシーに乗車してきて、思いを吐露する。密閉された車内でドライバーはこちらに背を向けているので話しやすいのだろう。まるでタクシー内はカウンセリングルームかカソリックの懺悔室の如くだ。
その精神科医か神父の役割であるリカもトラウマを抱え込んでいた。
共著の中上紀は中上健次の娘である。
大学で梁石日を呼んで講義が行われたことがあり、英文科の私は国文科のモグリとして聴いた。
確か「月はどっちに出ている」がヒットした頃だと思う。彼の第一印象はとても穏やかな人だなという感じだった。
講義後に学生との質疑応答があり、ある学生がこんな質問をした。
「タクシーの運転手は差別されていると著書にありましたが、それはなぜですか」
私は軽い衝撃を受けた。その大学は第二部、いわゆる夜間の大学で、私は30歳代、質問した学生は20歳代だ。
もはやそういった感覚はその世代では風化してしまっているのか。それは喜ばしいことだと思った。
西川やすしが乗車したタクシーの運転手と口論になり、「お前ら、今でこそ運転手と呼ばれとるが、昔で言えば駕籠かき雲助やないか」と吐き捨て、車に蹴りを入れ、運転手から侮辱罪で告訴されたのは1977年だった。
「雲助」という言葉も死語だ。
その学生に対して梁石日は少し困惑したように「それは昔からそういうことになってるんじゃないですか」と歯切れ悪く答えた。
そうとしか言えなかっただろう。