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2022年11月25日産経新聞ビブリオエッセー掲載「続・ペコロスの母に会いに行く」 岡野雄一


数年前に映画化でも話題になった漫画を再編集した本で副題に「童謡のような漫画短編集」とある。舞台は長崎。主な登場人物はペコロス(小たまねぎ)と名乗る著者、ゆういちと認知症の母、みつえ。シリーズの最初はグループホームに入所した母を見舞う息子の物語だったが父はずっと前に、そして母も亡くなり、この続編では追想の中に酒乱だった父、さとるらが顔を出す。

印象に残ったのは少年時代のゆういちが病の床で幻覚を見るシーンだ。それは生まれる前の母、みつえの繭(まゆ)を父が引きずっていくところだった。そしてみつえ誕生の夜を迎える。不思議な展開で、マルケスの『百年の孤独』のように壮大で幻想的に見えた。

あるいは臨終の近いみつえが少女時代の自分自身に話しかける場面。少女のみつえは未来の自分にこう叫ぶ。「おばあちゃーん! 今、何て言いなったと~?」。おばあちゃんのみつえは過去の自分にこう返した。「いっぱい生きんばぞー」。懸命に生きるんだぞ、とエールを送ると少女のみつえは「おばあちゃーん! 私(うち)、いーっぱい生きるばーい!」と叫ぶ。

ゆういちは言う。「俺(オイ)が生きとるという事は父ちゃんも母ちゃんもここに居(お)るという事だ」。われわれは親の、祖先からの遺伝子を連綿と受け継いできた。だから「亡くなることは生まれることかもしれない」。

『浜松中納言物語』から『豊饒の海』『火の鳥』まで輪廻転生をテーマにした作品は数多いが、この『ペコロス』のように漫画で時空を超え、過去や未来の自分が自身に語りかける作品は初めて読んだ。

酒と短歌をこよなく愛し、道端で酔い潰れた父、さとるは長崎の被爆者だった。著者は人の弱さを温かく見つめる。一度は離れた故郷、長崎に対しても同じように。

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