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『52ヘルツのクジラたち』
格闘技では劣勢になると笑う人がいる。全然効いてないと余裕を見せる。
いじめられている者はヘラヘラと笑う。
自分が苦しんでいることを他人に知られたくない。悲鳴さえあげられない。
「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのこと。
この物語は虐待、ヤングケアラー、性的マイノリティーといった様々な問題を内包する。
母親から虐待を受けていた三島貴瑚は同じように母親から虐待されて声の出ない13歳の少年と出会う。
アンと呼ばれる岡田安吾は自身が苦しんでいるがゆえに聞こえない声を聴くことができた。
しかし、そのアンの結末は悲惨なものだった。
アンとキナコ、奇跡的に出会った運命の二人は表裏一体だったがそれが悲劇を生む。キナコは今後その傷をも抱えて生きていかなければならない。
少年は彼女に救われるが、彼女もまた少年によって救われている。
虐待していた母親を擁護するわけではないが、その母親も孤独なクジラに思えた。
ラストシーンでキナコは海に向かって世界中の52ヘルツのクジラたちに祈る。
どうか、その声が誰かに届くように、わたしでいいならその声を聴いて見つけてみせるから、だから52ヘルツの声を聴かせて、と。
「他人の幸福をうらやんではいけない。 なぜならあなたは、彼の密かな悲しみを知らないのだから」
(ダンデミス )