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ケーキの切れない非行少年たちと閉鎖病棟に入った牧師
『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治
著者は発達障害、知的障害を持つ非行少年が収容されている医療少年院に勤務してきた。彼らは高校生なのに九九ができない、現総理大臣の名前がわからない、日本地図を見せても見たことがない、という少年もいる。
ある時、社会で暴行、障害事件を起こし入院してきて、少年院でも粗暴行為を繰り返す少年の診察をする。
ある複雑図形の模写をやらせてみた。彼の描いた模写を見た著者は非常にショックを受ける。それは似ても似つかぬ絵だったのだ。
それは世の中のこと全てが歪んで見えている、そして見る力がこれほど弱いと聞く力もかなり弱い、聞きとれても歪んで聞こえている可能性があると確信する。
このことが彼の非行の原因になっているではないか。ホールケーキの絵を指し示し、三等分にさせてみると、平行に線を引いたり、上から下に線を引いて左部分だけ二等分したりする。
そもそも最初から認識力が低いので学校の勉強についていけず、ドロップアウトするということになる。
非行少年には「認知機能の弱さ」、「感情統制の弱さ」、「融通の利かなさ」、「不適切な自己評価」、「身体的不器用さ」が顕著だという。
著者は様々なトライアンドエラーを通して彼らと向き合っていき、少しづつだが成果を上げていく。
『牧師、閉鎖病棟に入る』沼田和也
著者は幼稚園の理事長兼園長、プロテスタント教会の牧師を兼任していた。ある日抑えていたものが爆発し、副園長を罵倒して閉鎖病棟に入れられる。同じ部屋には16歳の子が入院していた。彼はテレビのチャンネル争いで、妹を金づちで殴ってしまったという。自分は発達障害だとも言う。
入院して二週間後のこと。
窓の外の夕日をみていた。
「きれいだなあ」
16歳の子はきょとんとして言う。
「きれいってどういうことですか」
愕然とした。
彼らは「夕日がきれいだね」と一緒に言ってくれる親も友人もいなかったのだ。夕日でなくてもいい、花でも目の前のかわいい子でもいい。とにかく生まれてこのかた、「きれい」を分かち合う相手がいなかった。
「きれい」という感情は本能ではない。それは誰かと共に「きれいだね」と言いあう体験を通して、学習することなのだ。
献身的な主治医の助けもあり、現在彼は東京の教会で牧師として復帰し、多くの人々に助けられ支えられて働いている。