岡山の未来を考えぶどうを育てる
フランス・ローヌで長年ぶどうの栽培醸造を続けてきた日本人のヴィニュロンである大岡弘武さんが現在は岡山でぶどうを育て、ワインを造っている。
岡山・富吉にある大岡さんが営むラ・グランド・コリーヌ・ジャポンに素敵なご縁で繋いでもらい特別に訪問させてもらった。
私も大好きなあの “ル・カノン“ を造られている大岡さんに会える。緊張しないわけがない。
初めてお会いする大岡さんはとても気さくで優しかった!
大岡さんの運転する車で早速畑に案内してもらった。
ちょうど色づきはじめてきた小公子という日本の山ブドウ系のぶどう畑へ。
大岡さんは日本でぶどうづくりをするにあたり、日本の気候に合っていて病害にかかりにくく、育てやすいぶどうを探していた。
そこで選ばれたのが小公子だ。雨の多い日本でも環境に適応し昔から生き残ってきた品種である。
このぶどう畑がある富吉地区は岡山の中でもとりわけ雨が少なく、台風などの自然災害も少ない。
よって他の地域とは違いレインカットをする必要がない。
そんな小公子でもかかってしまっているのが ”黒とう病“ 。
黒い斑点が葉や実に生じ、実が枯れていってしまう病気だ。
ぶどうが色づきはじめるとこれらの病気になりにくくなるそうだ。
この時期の畑は生態系を壊さないように少しずつ草刈りを行い、鳥たちにぶどうを食べられてしまわぬよう、これからぶどうの樹の上に鳥避けのネットを張る作業が待っているそう。
畑での大岡さんのお話で印象的だったのは、気候に合っている品種を選べばそこまで畑作業に苦労しないというお話。
富吉の土壌はフランス・ローヌと同じ花崗岩土壌で水はけが良い。
そして病害に強い小公子。
その土地に合わせたぶどうの仕立て方、病害や獣害への対策。
大岡さんのヴィニュロンとしての長年の経験。
一つ一つの言葉に説得力があった。
富吉地区は元々高級ぶどうであるマスカット・オブ・アレキサンドリア(以下略:アレキ)の一大産地。古くから栽培してきた歴史のある地域で、小公子の畑の周りにはぶどう栽培のための大きなガラス温室も見えた。
ぶどう農家さんの高齢化に伴い使われなくなったガラス温室もあり、壊すのにも費用がかかるため、大岡さんは古いガラス温室を直しながら再利用している。
地元の人にワイン用のアレキをつくってもらったり、ご自身でもガラス温室でシラーやサヴァニャンなどのぶどうを栽培しているそう。
大岡さんは現在この地域に適するぶどうを見つけるために、育種にも取り組んでいる。岡山の育種家である林慎悟さんと一緒に、岡山の土地に適する新たなぶどう品種を生み出すために、長い時間や労力をかけぶどうを交配させている。適する黒ぶどうは見つけられたが、白ぶどうがまだ見つからないとのことで、これからも続くそうだ。
そして地域の未来を担う若手の育成にも力を注いでいる。
地元岡山に戻り大岡さんのもとで修行し、将来ご自身のワイナリーを持つことを目指している若手の方にもお会いした。
畑を後にし、醸造所の中へ入らせてもらった。
醸造所はかつてお米の倉庫として使われていた建物を利用している。
ワイン醸造に使用するプレス機や発酵用のタンク、樽、瓶詰め機などは全て中古品でヤフオクなどで安価に手に入れたもの。
醸造所設立には、こうした器具を新品で一から揃えるとなるととてつもなくお金がかかる。
できるだけコストを抑えて醸造所を運営していく工夫がいっぱいだった。
最後に大岡さんのワインをテイスティングさせてもらった!
抜栓してから少し時間の経った、アレキを使ってつくられたペティアン(微発砲ワイン)や小公子でつくられた赤ワインなど何種も頂いたが、時間の経過を感じさせないような凝縮感がありとても美味しかった。
特に小公子はとても濃厚で酸とタンニンのバランスもよくいろんな要素を秘めていると感じた。小公子は10年熟成できるそう!とても飲んでみたいと思った。
終始朗らかにお話してくださった大岡さん。
岡山の地域の未来を常に考えながらぶどう栽培やワイン醸造をしていることが感じられる様々な取り組みに感銘を受けた。
今回訪問できてとても素敵な時間になった。
私も私なりの方法で、素敵なワインや生産者さん、その地域の魅力などをお伝えしていきたいと強く思った。