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ぶどうの声に耳を傾けて
名古屋のセントレアから飛行機に乗ってやってきたのは宮城県。
宮城を飛行機で訪れるのは初めて。
三重からだと遠いイメージがあった東北だが、飛行機に乗ったらあっという間だ。
働いているワイン屋でも取り扱っていて好きなワイナリーのひとつ、
Fattoria AL FIOREさんへ行くために。
宮城に到着した途端、東海のうだる暑さを忘れるくらいの涼やかな風が吹いていて、気持ちいい。
レンタカーに乗り込み、空港から車を走らせ約40分。
山あいの豊かな自然が広がる川崎町にたどり着いた。
ワイナリーは昔小学校の体育館として使われていた建物。
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入口からすぐのお部屋はワイナリーショップとワインセラーがあり、木を基調とした和モダンな内装だが、床はラインが引かれているあの体育館の床で、なんだか懐かしい気持ちになった。
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出迎えてくださったのはスタッフの小澤さん。
ほどなくして代表の目黒浩敬さんにバトンタッチし、併設されている醸造スペースを案内してもらった。
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想像していたよりも広くて整然とした醸造所内。
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代表の目黒さんはふんわりとした雰囲気で優しい口調でひとつひとつ丁寧に説明してくれた。
お話の中で印象的だったのは、
“ぶどうは生き物。生き物を扱っているのでじっくりゆっくりそのぶどうの声を聴きながら個性を尊重し、必要であれば手助けをする。
毎日ぶどうの声を聴くようにしている。“ というお話。
“赤ちゃんや動物と同じで言葉が伝わらない場合は、ずっと観察するしかない。
ずっと見ていると、相手が何を必要としているのか自ずと見えてくる。“
ぶどうの声を聴くというのは、発酵中のタンクに耳を当て、その様子をじっくりきくというもの。
日によって時によって音が変わるし、音で醸造の様子がわかるそう。
ぶどうも生き物で毎日変わるのは私たち人間と同じだ。
より詳しく声を聴くために聴診器も導入しようかなと言っていた目黒さん。
まさにぶどうのお医者さんのようだ。
ショップ脇にあるワインセラーにも入らせてもらった。
ワイナリーで販売するワインがずらりと陳列されている。
可愛らしいネコが描かれているのはNECOシリーズと呼ばれるワインで、目黒さんが一緒に暮らしている猫の個性とワインの個性を重ね合わせて猫のお名前をつけたもの。それぞれに個性があって、楽しい。私がAL FIOREさんのワインを知るきっかけになったワインだ。
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今年はゆっくりめのリリースだそう。ぶどうの個性を尊重してのことだ。
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ワインも数種類テイスティングさせてもらった。
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どんな人がぶどうをつくっていて、そのぶどうを使ってどんな想いでそのワインをつくっているのか、それぞれにストーリーがあって面白い。
Imagineも好きなワインのひとつで、ボトルの裏に醸造した目黒礼奈さんのメッセージが書かれている。
想像してごらん。
すべては、想像することから始まるよ。
一人一人が自由に、幸せに、豊かに。
本当の自分を生きる時代。
もっと もっと、心あるままに。
さあ、創造しよう!
はじめて名古屋でimagineを飲んだ時にこのメッセージとともにワインがとても美味しくて印象的だったのを覚えている。
新しい2021年のimagineもやさしい旨味が感じられて、とても好きな味わいだった。
どんなワインでもそうだけれど、やはり現地に行き、ワインに携わっている方々のお話を聞きながら飲む味は格別だ。
目黒さんからぶどう栽培やワインづくりの考え方などたくさんお話が聞けてとても充実した試飲タイムになった。
なんだかんだお話していたらもう14時近く。
お腹が急激に空いてきた。
お昼にしましょうと目黒さんの後輩の方が営んでいるお店に連れて行ってもらった。
ワイナリーから車で10分程の場所にある農産物直売所の建物の一角がレストランになっている。
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farmer’s table mano(ファーマーズテーブルマーノ)さんは、シェフの佐藤剛さんが自ら育てた放牧豚 “たけし豚“ を使用したお料理や自家製のシャルキュトリーを提供する地元に根ざしたレストラン。
佐藤さんは以前目黒さんと一緒にレストランで働いていたそうだ。
気になる “たけし豚“ に惹かれて、こちらをオーダー。
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地元の野菜もふんだんに入っている前菜の盛り合わせ。オムレツもレバーパテもハムも美味しくて箸が止まらない。メインのたけし豚のグリルも柔らかくやさしい旨味がじゅわっと広がり、付け合わせのお野菜と一緒にいただくと、もう最高。一緒に頂いたとうもろこしごはんも美味しくって、あっという間に完食。
時間の関係で飲めなかったが、ワインを飲みながらでもゆるゆる楽しめそうだ。
店内は広々とした空間で、大きな窓からは川崎町の自然豊かな風景を眺めることができる。地元の人が多く来店していて、地域交流の場になっているようだった。
また食べたいな、たけし豚。また来たいな、ここのお店。
ランチの後、最後に訪れたのはAL FIOREさんの自社ぶどう畑。
見晴らしの良い緩やかな斜面に位置した2haの畑は、2014年から耕作放棄地だったところを開墾してきたもの。気持ち良い眺めだ。
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ぶどうの枝が天井に沿うように伸びて、トンネルのようになっている。
畑では目黒さんの弟さんらが汗を流しながら作業をしていた。
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畑は極力、化学的な農薬や肥料に頼らない栽培方法を実践しているが、病気になったり、害虫にやられたりして大きくダメージを受ける年も多く、状況に応じて最低限の薬剤を使用したりと試行錯誤されている。
日本といえど気候も天候も地域ごとに違うし、湿度もあるし、病気と隣り合わせのリスクが他のワイン国に比べて高い。
その土地、そのぶどう畑に適した栽培方法を模索しなければならない。
今年はカスミカメムシやタマバエなどの害虫の被害が多く、苦戦しているそう。
被害にあったぶどうの樹を見て心が痛んだ。
ぶどうづくりは自然とともにある。健全なぶどうを収穫するために数えきれないほどの苦労を重ねて、ぶどうを育てている生産者さん。
そしてあの美味しいワインができるのである。
感謝を忘れずに大事にワインをいただきたいと思った。
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ぶどうの声に耳を傾けながら、日々を営んでいく。
終始優しい語り口で案内してくれた目黒さんだったが、この地でぶどうを育てワインづくりをしていく強い信念や情熱もお話の中で感じとることができた。
人と地域と自然のつながりを肌で感じ、そこから生み出されるワインがより身近な存在となる素敵な時間だった。