『Tomizo~僕と親方の造園日記』⑥わら神様
今日の親方は、真剣だった。
風もなく、太陽の熱がジリジリと僕らの体を蝕む、ひどい暑さだった。
親方が集中するとき、舌で上唇を舐める癖があるのは知っていた。
そう、犬が自分の鼻を舌で舐める、あの光景とよく似ている。
親方の緊張はヒシヒシと全作業員に伝わっていた。
ショベルカーを巧みに操作しながら、伐採木を次々に運んでいく。
集中力を切らしたら、大事故にもなりかねない。
灼熱の暑さの中、
集中力が途切れることなく、
舌ペロリの親方は、
黙々と作業をしていた。
ヘルメットのすき間から、汗が滝のように流れていた。
ヘルメットのすき間
流れる汗
雲ひとつない空
ん?
親方の汗
ヘルメット
青い空
ん?
ヘルメットの上…
え?
カマキリ!?
遠くからゆっくりとショベルカーに乗ってこっちに向かってくる親方。
ガタガタと揺れながら、舌ペロリの真剣親方。
そのヘルメットの頂点に君臨し、親方の緊張感とは対照的に、
ほのぼの感を演出させる
カマキリ。。
まるで、ヘルメットに元々ついていたオブジェかのように、馴染んでいる。
集中する舌ペロリの親方と
カマキリon the ヘルメット……
集中舌ペロ親方あ~んど
カマキリon the ヘルメット…
舌ペロカマキリヘルメット親方…
舌ペロカマキリ親方…
笑いたい。
笑いたいのに笑えない。
腹が痛い。
力が出ない。
そうだ!見なければいい!
そのうち飛んでどこかに行くんだろう。
数分したら、いなくなる。
親方の方は決して見ず、
作業に集中すればいいだけだ!
数分が経った。
見ずにそっとしておこう。
僕は冷静さを装いながらも
あれはまだ居るのか居ないのか、心の底から湧き出る情熱を抑えきれずにいた……
冷静と、情熱の間で、
僕は心底もがき苦しんでいた。
その時、兄弟子の一人が声を上げた。
「おーい、ノリゾー危ないぞぉ、バケットの下には行くなよー」
ちょうどその時、親方はショベルカーのバケットを上に上げていた。
僕は反射的に親方の方を見てしまった。
不覚だった。
ショベルカーのバケットがゆっくり上がるのと同時に、
カマキリ親方、いや、カマキリon the ヘルメットが、
ゆっくり、、
両手を上に上げている!?!?
わら神さまぁぁぁぁ、
あんたは悪魔だぁぁぁ!!!
親方ぁぁぁ!気付いてくれよぉぉぉ。あいつ!完全に親方と連動してるじゃないかぁぁぁ(泣)
もう、それを見てからの僕の仕事っぷりは最悪だった。
体を小刻みに震わせながら、プルプルしている僕を見て、具合が悪いのかと兄弟子達から心配された。
笑いたいのに、笑えない苦しみが、こんなに辛いものだったなんて……
なんとか、3時休憩まで震える体に鞭を打ちながら乗り越えた。
お茶を飲んで深呼吸していると、兄弟子の一人が親方にとてつもない爆弾発言をぶち込んだ。
「親方~、今日はカマキリだったっすよ~。俺のインスタのせときますねぇ。」
!!!!!!
なんてことを!インスタにあげる!?僕らの大事な親方を、全世界の笑いものにするつもりなのか!正気の沙汰じゃない!
すると、親方はあっさり答えた。
「お、そうか、よろしくなぁ、わしの遺影候補がひとつ増えたのぉ(笑)」
え?なにこの返し??
僕はこの状況を把握するのに、頭の中がカオスになっていた。
「あー、ノリゾーは初めてやったなぁ。親方なぁ、よう虫連れてくるんじゃぁ。 aikoの「カブトムシ」現象やなぁ。親方には樹液の匂いでもするんかのぉ(笑)
この前のやつなんか、すごかったぞぉ!100年に1度のベストショットやぁ!」
そう言って、兄弟子がスマホの写真を見せてくれた。
ヘルメット
その上に
てんとう虫
その上に
トンボ……
タケコプターかぁぁぁ!!!!
そしてそこには、
満面の笑みでのピースサインをしている親方がいた。
あー、そうだった。
神様は、
乗り越えられない試練は与えないと聞いたことがある。
きっと、僕にも乗り越えられる。
兄弟子達が乗り越えたように。
その為に
僕ができるはじめの一歩。
速攻で、
兄弟子の
インスタ
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