母親が娘に依存してくる!どうする?(精神科医みきぽんの人生相談室#5)
みなさん こんにちは 精神科医みきぽんです。 本日は母親の依存にどのような対応をしていいか悩む36歳の女性からのご相談です。
同居している母親とのことで悩んでいます。67歳になる母親と二人暮らしです。父は7年前に心筋梗塞で急死し、それ以来母と二人暮らしです。私は大学在学時に一人暮らしをしていましたが、就職のタイミングで実家にもどりました。
母は糖尿病を患っていて定期的に通院をしていますが、現在のところ日常生活に大きな支障はなくすごせています。
問題は母の精神状態なのですが、2年ほど前より 「ずっと一緒に住んでくれるよね?」 「○○(私の名前)がそばにいてくれるから私の老後は安心だ∼」 というような発言が多くなってきたのです。
私は一年ほど前から仕事上の立場が変わって残業することがふえたため、通勤時間削減のために会社の近くへ引っ越しをしたいと考えていますが、言い出せずにいます。
母のことはとても大事に思っており育ててもらった恩も感じています。これからも母のサポートをできる限りしていきたいとは考えています。
ですが私のほうも体力的な衰えも感じ始めていることもあり、今の状態が続くことに将来にわたっての不安を禁じえません。
私は二人兄妹で兄がいますが、兄は結婚して家庭を持ち他県に住んでいるため母親のサポートに関してはあまり頼りにできません。
私自身には結婚の予定はありません。今後どのようにしていけばよいかアドバイスをお願いします。
実家を出て一人暮らしをしたいけれど母親に言い出すことができずに悩む女性の方からのご相談です。
母親は娘と一緒に暮らしていきたいが、娘は自分の生活拠点を別につくり一人暮らしを望んでいます。
母親と自分の希望の相違にこころを痛めておられると推察致しました。相談者さんはとてもお優しい方ですね。
母親と娘の願いが一致しない時に娘はどうするのがいいのか?
この答を考えていくということは『親と自分のどちらの気持ちを優先させるのか』という普遍的問いかけへの回答をみつけていく作業になります。
考えていくプロセスで大切なことを整理してみましょう。
1 感情を排して状況を客観的にみる
2 現状維持の場合に先々どうなるか予測をたててみる
3 自分の足場(安全に生活ができる場所)を確保して自分の人生を生きる
【育ててもらった「恩」という呪縛から解放される】
想像以上に多くの人が”親に育ててもらった恩”に縛られて生きています。親の意に反し自分の思いを通すことが、親を裏切るように思われて心苦しく感じてしまうのです。
しかしながら本来子供をもち親になった以上、子供を育てていくこととそれに伴う様々な苦労を引き受けることは親として当然のことです。親は苦労だけではなく、子育てに伴う喜びも手に入れていると思います。
ですから子供は育ててもらったことに感謝こそすれ、ことさら恩義に感じなくてよいのです。親の要求を全て受け入れなければならないと思うことはありませんし、受け入れることのできない自分を冷たいと思う必要もありません。
子供が自分の人生を生きていこうとする時には”恩”という言葉は辞書からはずして考えたほうがよいのではないかと感じています。
依存的な傾向のある親は恩という言葉で子供を縛り、子供は恩を返さなければ という思いで身動きがとれなくなってしまう 臨床の場面でそのようなケースに数多く遭遇してきました。
私たちが〖自分の人生において大切な選択をする時には 親の状況はひとまず横において、自分が一番幸せになれる道を選んでいい〗のです。
【事なかれ主義からの脱却をはかる】
人間の行動や考えはその時々の心身のコンディションや環境によって大きく変わってきます。
相談者さんのお母さんは様々な状況によって現在は余裕が少なくなっているのかもしれませんね。余裕がなくなると誰もが自分の身を守ることに精一杯になってしまいます。
余裕がないと先々のことを冷静に予測する力が低下してきます。将来○○になるから先手をうっておこう、という考えをもつことが困難になることが多いのです。物事を変えていくのは変革に伴うエネルギーを必要としますので、”とりあえず”の現状維持を優先させるようになります。
お母さんは自分の身を守ることを優先し、今現在目の前にいる娘に依存的になっている可能性があります。
相談者さんのほうが冷静に将来のことを予測する力があると思われます。ぜひ三年後、五年後そして十年後にどうなっているのか 予測をたててみてください。
家を出ての一人暮らしへのハードルは今以上に高くなっているのではないでしょうか?
【自分を守ることは相手を守ることになるという認識をもつ】
助けを必要としている人に、私たちがサポートの手を差し伸べようとする時に大切なことはなんでしょうか?
「川でおぼれそうになっている人をみつけた時に丸腰で飛び込んで救助にむかうことは危険です」という話を聞いたことがあると思います。
危機に瀕している人を助けたいという気持ち自体は大変尊いものですが、自分自身の命が危険にさらされることになれば、助けることはおろか最悪二人とも命を失う可能性がでてきます。
自分は岸にいて、おぼれそうな人に浮き輪を投げる、そして救命胴衣をつけて救助に向かうほうが2人の生還できる可能性が高くなります。その際周りの人に助けを求めることも必要かつ有効となるでしょう。
「自分自身の足場をしっかりと確保しておくことが、実は相手にとっても大事なことなのだ」ということは心にしっかりとどめておきたいですね。
母親からの要求に応じることで、娘の大切な生活上の基盤や心身の健康状態がおびやかされることになれば、娘は母親を助けることができなくなってしまいます。母親のためにも自分の生活基盤いわばベースキャンプはしっかりと守らなければなりません。
相談者さんは今後年齢を重ね、仕事上の責任も重くなってくる可能性もあります。自分自身の心身の健康を維持できるような生活環境をつくっていかれることが望ましいでしょう。
自分の生活基盤をしっかりと確保したうえで、お兄さんと話し合いもしながらお母さんのサポートしていく方法を考えていかれるのがよいと思います。
【自分の人生を生きていくという覚悟をもつ】
生きていくことは選択の連続です。小さい選択もあれば、大きな選択を目の前にたじろいでしまうこともあるでしょう。
どこに住むか、どのような暮らしをするのかということは私たちの人生そのものを方向づける大切な事柄です。
自分の人生の大切な選択をするときは、自身の健康や快適さ、幸福感をポイントにして選ぶとよいでしょう。
ご自分の人生を尊重する選択をするときには、母親への罪悪感や申し訳ない気持ちに後ろ髪を引かれる思いにおそわれるかもしれません。
しかし人生の選択においては、『全く後悔のない道は存在しない』のだと思います。
私たちは生きていくうえで、『自分にとって大切なものを選ぶとき、もう一方のものをあきらめないといけない』場面に遭遇することがあります。
勇気と覚悟をもって自分の大切な人生の選択をなさるよう応援しています。
相談者さんが健康を保ち心穏やかに暮らせることをこころよりお祈りいたします。
お読みくださいまして誠にありがとうございました。
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