Day48―触覚刺激1つで判断が変わる
今回は認知心理学、行動心理学的トピック。
Ackerman, J. M., Nocera, C. C., & Bargh, J. A. (2010). Incidental haptic sensations influence social judgments and decisions. Science, 328(5986), 1712-1715.
触覚系の心理学研究では頻繁に引用される論文。人間の判斷は無意識のうちに触覚の影響を受けていることを、6つの実験によって明らかにした。
背景
触覚は、五感の中で最も早期に獲得される感覚である。現代社会において触覚の重要性は低い(と思い込まれて)いるが、実は無意識のうちに触覚が与える影響は大きいのではないか。そのような仮説がスタート地点にある。
実験と結果
6つの実験を実施し、3つの触覚カテゴリ(重さ、質感、硬さ)について検証した。
例えば重さに関する実験では、環境問題とどうでも良い問題の重要性について評価してもらった。その際に一方のグループは軽いクリップボードで提示され、もう一方のグループは重いクリップボードで提示された。結果、重いクリップボードで回答したグループのほうが有意により重要と答えた。
このような実験の結果、重さは「重要性(importance)」や「真面目さ(seriousness)」、「困難な問題における解決策の判断基準」になる。
質感はコミュニケーションに関係する。より粗いほど齟齬(coordination)が大きくなるが、逆に対等性(coordination)は上がる。
硬さは他者をより「厳格(stable)」で「安定している(stable)」と見なす傾向を高めるが、同時に「あまり感情的でない(less emotional)」という印象を高める。さらに、交渉の柔軟性を下げてしまう。
なおこれらの実験のうち「硬さ」に関係した実験は、硬いソファと柔らかいソファで比較したため、手だけでなく全体で感じる触感が影響を与えたといえる。
これら一連の実験から、触覚は無意識のうちにパーソナリティの判斷にまで影響を与えるといえる。
その背景には乳児期における言語学習以前の「身体認知能力」発達、世界の表象化が関係していると考えられる。
所感
実験計画がとてつもなく鮮やか。SCIENCE誌に記載されているだけのことはある。
このレポートが2010年に出版されたことを考えると、感覚心理学と行動心理学を組み合わせたような研究は意外と過去に実施されていないことがわかる。やはり「Personality」や「Interaction」に関係する研究はフロンティアだ。