大丈夫なんだっていうことを言いたくなった。
今日、ひさしぶりに、言葉が落ちてきた。
突然、言葉が落ちてくる、ことがある。
最近はあまりなかったけれど、時々ある。
街をあるいているとき、電車に乗っているとき、ひとりでいるとき。
それはたぶん上の方から落ちてくる。
上空から、落ちてくる。
徐々にわたしの頭上に近付いてくる。
そのままわたしの頭を、のどを、胸を通り抜けて、わたしのまんなかに落ちてくる。
それは、なんというか、全体的にまるくて、つやつやしていて、輪郭のぶぶんがほんのり発光している。
生まれたてのあかちゃんみたいな感じだ。
だからわたしは、ちゃんと抱きとめる。
「よく来たね」っていう気持ちで、抱きとめる。
ほんのりあたたかい物体。
わたしのなかは苛烈で熾烈だ。それは事実で。
だっておもねたら崩れる。ぐずぐずに崩れて、立っていられなくなる。だから抵抗する。
そのたび、そうだ、これがわたしだったって思う。思い知らされる。
『生きてるだけで、愛。』の寧子の言葉を思い出す。過去に言われた言葉が思い出される。息がつまる。
でもおなじくらい、長いこと会っていない旧友の、その後の人生とその幸せをなんとなく願ったり、
街ですれ違った見知らぬふたりの未来を想像したり、
きれいに塗られたマニキュアを見て、その子がだれかのためにかじぶんのためにかはさておき、広げた指の、その先一枚一枚に、やさしく色をのせたときの心の静謐さを想うことだってある。
言葉が、落ちてくる。
わたしは、それをちゃんと抱きとめることができる。
だからなんというか、大丈夫なんだ。
大丈夫なんだっていうことを言いたくなった。
それだけです。