本物はあなた わたしも本物
2025年、どう生きていこう。そんなことを考えているとき、星野源さんが紅白で『ばらばら』を歌いはじめた。わたしは急いでテレビの前へ行き、膝を抱え、そのステージを見つめた。
表情、ギターの音、声、佇まい、静寂。吸い込まれるような時間だった。だれにもふれることができない歌を、いま聴いているのだと思った。
源さんは「本物はあなた わたしは偽物」の歌詞を変えて歌った。
わたしも本物。
それを聴いたときの感覚はとても不思議で、心のどこかのピースがはまるような、固い結び目がほどけるような、そんな感覚だった。
いつだって「わたしは偽物」に共感してきた人生だった。
あなたみたいに芯から優しい人間じゃない。
あなたみたいに朗らかな人間じゃない。
あなたみたいに愛されるような人間じゃない。
わたしは「そう在りたい」と願い、もがいているだけの人間だと。
いちばん近くにいる「あなた」に対してこそ、そう思ってきた。
でも去年、12年分の日記を振り返り、それを本という形にして、たくさんのあたたかな言葉をいただく経験を通して、その考えが少しずつ変わっていくのを感じていた。
もしかしたら「こう在りたい」と願いもがき続けたその時間こそ、わたしをわたしたらしめる「本当のこと」なのかもしれないと。
それは言葉にする前の気持ちで、自分の中でさえ、しっくりする言葉は見つかっていなかった。
だけど源さんが「わたしも本物」と歌ったとき、ああ、この言葉をずっと待っていたのかもしれないと思った。わたしがわたしに対して言ってあげなかった「もがいてきたあなたは偽物じゃない」という言葉を、歌を通してかけてもらった気がした。それは真意をさぐるような気持ちではなく、ただあの瞬間のわたしにとって、あの『ばらばら』が、そう聴こえたという話。
あなたは本物。わたしも本物。
同じじゃなくて、ひとつにはなれない。
それで、じゃあ、どうしようか。
そんな気持ちでこの一年を始めてみたい。
年が明けた深夜1時。「星野源のオールナイトニッポン」の生放送が始まった。冒頭のトークは「今日だれも聴いてないでしょ」とか「おせちがさあ」とか、いつも通りのくだけたトークだった。
その声のトーンがいつも通りでないこと、リスナーは分かっていたと思う。だけど、あの『ばらばら』のあとで、くだらない話をしてくれたことは、リスナーへの愛だと思った。
2024年の最後にあの『ばらばら』を聴けてよかった。2025年の始まりに、このラジオを聴けてよかった。
思えば去年も源さんのラジオのことを書いていた。
いい一年にしていきたい。たくさん悩んで、笑って、心も身体もたくさん使って、すこやかに、しなやかに。
明けましておめでとうございます。今年も自分の言葉を綴っていきたいと思います。わたしもあなたも、たくさんの喜びに出会える一年になりますように。