ナダールと19世紀パリ#01/フェリックス・ナダールの写真
ベル・エポックの快男子フェリックス・ナダールの写真館は、今でもパリにあります。
"Nadar-estudio apos 1880" 35 Boulevard des Capucines, 75009 Paris,
オペラ座通りとガプーシーヌ通りに挟まれたマドレーヌ通りの真ん中あたり、オペラ座通りから歩くとドヌー通りを渡った所です。
もちろん19世紀後半/往年の勢いはありません。その気になって探さないと見つからない。しかし温故知新。訪ねてみる価値はあります。
もし「写真」というものに興味が有れば、ぜひ訪ねてみてください。モンパルナスにあるアジェのアパートと共に、パリ市内にある写真史上とても重要なランドマークなのです。
フェリックス・ナダールの写真は、19世紀後半20世紀初頭の著名人を撮ったものが有名です。アレクサンドル・デュマ、ジョルジュ・サンド、シャルル・ボードレール、アレクサンドル・デュマ・フィス、ジュール:ヴェルヌ、エミール・ゾラ、ヴィクトル・ユゴー、画家のウジェーヌ・ドラクロワ、ジャン・フランソワ・ミレー、ギュスターヴ・クールベ、エドゥアール・マネ、ギュスターヴ・ドレ、音楽家のジョアキーノ・ロッシーニ、ジュゼッペ・ヴェルディと列挙すれば暇もない。
ちょっと突っ込んだ話なんですが、ナダールの写真はウッドベリータイプWoodburytypeという技法でプリントされています。英国の発明家であるウォルター・ベントレー・ウッドベリーWalter Bentley Woodburyが1864年に特許を取った技法で、めんどくさいかも知れないんですが説明します。興味なければ次段は飛ばし読みしてください。
まず金属(主に鉛)板に、光で硬化するゼラチンを塗布します。これにネガティヴ・フィルムを通して光を当てます。撮影します。そして硬化しなかったゼラチンを洗い流した後、この板を巨大な圧力で鉛板に押し付ける。そうするとインタリオ版ができる。出来上がったインタリオ版に顔料を混ぜたゼラチンを塗布し、紙を押し付けると凸部のゼラチンが押し出されて凹部にのみその深さに応じた量のゼラチンが残ります。そしてそのゼラチンが紙に定着したところで紙を版から剥がし、乾燥させて出来上がりです。とても手間のかかる技法です。
しかし現在使われているようなハーフトーンスクリーン(網点/つまりドットの集合)と違って連続的なグラデーションが出せるので「光と影の芸術」である写真にとっては遥かに絶妙な表現が可能な技法です。
それと一度作られた金属(鉛)からは、エッチングのように数百枚のプリントが作れたので、当時の写真家たちは挙ってこの技法を使用しました。
ナダールがこの技法を利用した大きな理由は、その再生力でしょうね。
当時、出版物に挟まれる挿絵はすべてエッチングで描かれたものです。云ってみれば写真のエッチングであるウッドベリータイプは、彼が考えた「著名人へのインタビューに写真を合わせる」という手法にぴったりだったに違いありません。
・・そうなんです。新聞に、著名人の談話を掲載するとき、インタビューと共に写真を載せるという手法は、彼が嚆矢なんです。
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました