夫婦で歩くシャンパニュー歴史散歩3-3-3/ランス旧市街散歩でガロロマンを見つつ戦争について考える
https://www.youtube.com/watch?v=dbL3YdFt1co
「モスレム教団が北アフリカからイベリア半島へ流れ込んだのは711年だ」
「え?なんでスペインの話になっちゃうの?」
「イベリア半島を我が物にするに、モスレムは20年かからなかった。彼らは西ゴトー王国を滅ぼし、そのままピレネー半島へ雪崩込み中央フランスを目指したんだ。そしてランスだ」
「あ~なるほどね。そして、ランスなわけね。ランスはゲルマン人に征服された後も、今度は違う外圧に晒さられたのね」
「ん。クロヴィス死後3分裂した王国は憎悪し合っていたが、この時ばかりは手を組んでモスレムと戦ったんだ。リーダーになったのは宮宰シャルル・マルテルCharles Martelだった」
「シャルル・マルテル?初めて聞く名前だわ」
「カロリング家ピピン2世の庶子だよ。カロリング家は、代々メロヴィング朝フランク王国の宮宰をしていた一族だ。クローヴィス死後弱体化していた王宮を実質的に支配していたのは、このカロリング家だったんだ。そのリーダだったシャルル・マルテルが先頭になってモスレムと戦った。
そして732年にトゥール・ポワティエの戦いでマルテルはモスレムに勝利し、彼らを追いやった。このことでマルテルは宮廷内で圧倒的な支配力を持っようになったんだよ。クローヴィス直系のメロヴィング系は凋落の一途を辿った。結局751年、カロリング家ピピン4世がにフランク国王位に就いたわけだ。ピピン4世はマルテルの実息だ」
「王は追われ、副官が王になった・・というわけ?」
「そうだ。びっくりする話じゃない。こうした話は欧州史の中に幾つもある」
「なるほどね」
「もう一つみるべきことがある。実は、マルテルはランスを見捨てたんだ」
「見捨てた?」
「ん。ランスは彼の命令で解体されたんだ」
「解体?どうして?」
「マルテルは必要以上に教会が世俗的権力を持つことを嫌った。司祭の還俗化を目指したんだよ。彼は教会が王家と等しい、あるいは王家まで飲み込んでしまうほどの勢力になるのを恐れたんだと僕は思うな。たしかにフランク族は教会の手助けで北東フランスを手に入れた。そのことを嵩にきて、教会が信仰以上のパワーを持つことを恐れた」
「未来のキリスト教国家を幻視したのね」
「ん・たしかにな。マルテルはその目を摘もうとした。このマルテルのランス解体命令によって、ランスの財宝資産は大半がメッツへ移されたんだ。そのため、このとき以前の資産/財宝は、いまのランスには殆どない。・・この聖レミの博物館にもね。わずかしかないんだ」
「でも・・だめだったのね」
「ん。マルテルの死で、彼の教会への危惧は潰えた。だれも彼の危惧を踏襲しなかった。支配者たちは、教会が持つパワーに魅了されたんだ。ハニトラならぬfaithTrapから抜けられなかったというわけだ
実子・小ピピンがフランスの王になるとき、彼はクローヴィスを範としてランス大聖堂で戴冠式を行うことを選んだ。751年だ。このピピンの戴冠式を行うことで、ランスは見事聖都市として再度復活したんだ」
「こうして、王も教会に破門されてしまえば、権力の全てを失ってしまう時代へ進むのね」
「そうだ。教会はキリスト教世界に君臨した。英国のヘンリ8世が1534年に楯突いて、英国人は英国人独自の教会をつくるまでね。そして商人たちが、自分たちの信心としてプロテスタントを始めるまでね・・教会は西欧世界を完全支配した。ランスは正に聖都市として、そのシンボルになったわけだ。・・ところがだ。ランスは行政都市になろうとしなかった」
「どういうこと?」
「教会は、王とその配下そして軍の居場所をランスに置かなかったんだ」
「どうして?」
「マルテルが教会を揺るがしたからだろう。教会に対抗できる勢力を、教会は傍に置きたくなかったんだろう。同時に、王とその配下も猛烈なパワーを持ち始めている教会と同居はしたくなかったにちがいない。これは正しい判断だ。
メッツが首都としての機能を喪失し始めると、ランスは行政都市にならなかった。むしろセーヌ河沿岸に有った湾岸都市パリがそれを担うようになったんだ。以降パリがフランスの首都/行政都市になった。今現在に至るまでね」
「ランスではなかったのね」
「そうだ。ランスは司教たちの街だ。王たちの街ではない。しかしロジスティクとしての川は・・マルス川がある。宗教都市・聖都市ランスは、このロジスティクを利用して商業都市として大盛況していくんだ」
「どういうこと?」
「教会は、商いを奨励した。資金無くて大聖堂の建立も維持もできないからね。王への発言力も維持できない。教会は、さまざまな手工業品の生産地、そしてその製品を売るマーケットを大量に、ランス周辺に起こしたんだ。
もともと焼き物とガラスの製造は、この地の伝統産業だったしね、それにフランドルからやって来た織物業者が重なった。とくにサージに特化したランスの記事は特産品になったんだよ。こうしたランスの商品は、北ヨーロッパに自然発生した『ハンザ同盟』の商人たちや、遥々地中海からやってくるナポリ/フィレンツェ/ピサが競うように買い取っていったんだ。この時代から、ランスは北東ヨーロッパ最大の貿易都市になっていったんだよ。
ここに時代の数奇を感じないかい?」
「なにそれ?」
「商人の台頭と巨大化の切っ掛けを教会がはじめたんだ。この商人の台頭がプロテスタントと言う別の信仰を産み出し、アンシャンレジュームを不満としたバリ革命へ繋がっていくんだ」