蒋経国という生き方#06/朝鮮戦争
「快進撃を続ける金日成軍の喉許を食い破るため、マッカーサーはインチョン上陸作戦を立てた。インチョンを落とせばソウルまでは一時間かからない。しかしそのためには秘密裏に兵を集めなければならない。これは大変な作業だ。マッカーサーはヨーロッパ戦線から大量の兵をインチョン上陸作戦へ動員するという手に出た。敢えて太平洋側の連合軍にはインチョン上陸を匂わせるような動きをさせなかったんだ。なので上陸動員数の確保が極めて重要な課題だった。そこに蒋介石が朝鮮戦争参戦のラブコールを何回もマッカーサーへ出したんだ。マッカーサーは蒋介石軍を使いたかった。しかし本国にその旨打診すると、返答はにべなく拒否だった。」
「それもトルーマンの指示?」
「はっきりとした指示はしていない。しかし米軍の中にはトルーマンへ忖度する者も多かったし、マッカーサーのやり方に不快感を持つ者も多かったからね。インチョン上陸作戦そのものに、米軍本体は賛成ではなかったんだ。あまりにも無謀な奇襲作戦だったからね。ともかく国民政府/蒋介石の参戦は拒否された。・・実は何回も打診している。マッカーサーは一人でも多くの兵士が欲しかったんだろうな。蒋介石は機を見るに敏な男だ。天才的でもある。もし朝鮮戦争に参加できれば・・起死回生のチャンスと見たんだろう。マッカーサーと蒋介石の間で、ニーズとウォンツは一致していた。しかし米本国はこれを許さなかった。
・・朝鮮戦争ってさ、他の動乱に比しても何とも複雑なパワーバランスが絡み合ったものだったんだ。これは北側もそうだったし、南側もそうだった。
実は中国共産党/毛沢東は、あまり乗り気でなかった。」
「どうして?」
「スターリンだよ。平気でコロコロと約束をひっくり返す男だ。それにもう一息で蒋介石を握りつぶせるところにいたからな。それに特化したかった。ところがスターリンは戦闘機という餌を毛沢東の前にブル下げて、中国共産党を朝鮮戦争へ引っ張り込んだんだ。毛沢東は空軍が喉から手が出るほど欲しかったからな。しぶしぶスターリンの話に乗った。
おかげで一挙に蒋介石への圧力は激減した。」
「蒋介石は反撃に出たの?」
「いや。出なかった。手付かずになっていた内患の処理をしたんだ。
国民政府/蒋介石が一枚岩でなかったことは話したよな」
「ええ」
「その大半は本土のしがらみを持った連中だ。そういう連中はほとんど蒋介石と一緒に台湾へ逃げ込まなかった。蒋介石は、こうした連中を一掃したんだ。電光石火の勢いだった。このへんが蒋介石らしいところだな。」
「機を見る敏・・」
「ん。米軍の虎の衣を借りて本土へ反撃できないなら、内患の処理をすぐさま行った。
彼は朝鮮戦争開戦2ヵ月後1950年7月の国民党中央常務委員会で党の改造案を可決させている。これは改造期間中は国民党の中枢機関である中央執行委員会、中央監察委員会の機能を停止させ、蒋介石が任命する中央改造委員がその機能を代行し、党の改造が完遂した段階で国民党七全大会を開催するというものだった。これをもってして台湾島は蒋介石のものになった・・実質的な独裁体制の確立さ。朝鮮戦争のドサクサにまぎれて蒋介石は見事にコレを成立させたんだ。
台湾における蒋介石オンリーワン体制はこうして出来上がった」
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