星と風と海流の民#47/扶南王国#02
プノンペンの定宿はRaffles Hotel Le Royal(92 Rukhak Vithei, Phnom Penh 12302,Cambodia)
にしていた。此処からアンコール・ボレイ博物館までは90km程度離れている。クルマで二時間程度だろうか。RUAの先生が経営しているココナツ畑もそのくらい離れているが、こちらは国道3号を南へ降りていく感じだ。博物館は少し離れたところを走る国道2号を南下するコースになる。
ホテルまで迎えに来てくれたのは若い青年二人だった。MoauくんとSuanくんと呼びたい。
MoauくんはRUAの学生で、SuanくんはROU(Royal University of Phnom Penh)の学生だった。人文学で歴史を学んでいるそうだ。二人とも利発な初々し若者だった。
「LokMikeは日本の方ですか?シンガポールからいらしてると先生から伺っていますが」Suanくんが言った。
「うん、国籍はね。でもビジネスマインドはシンガポール人だ」
「そうなんですか」とSuanくんは言ったが、その意味はよく分かっていないようだった。
彼らが"和魂漢才"という立ち位置に出会うのは、まだまだ先なのかもしれない、と思った。
「仕事をさせてもらってるのも、税金を払ってるのもシンガポールだからね。だからシンガポール人なんだよ」僕が言うと、二人は「成程」と頷いたが腑に落ちてはいないようだった。
でもいつか聡明な彼らなら、仕事をするというグローバルスタンダードと、自分の中に流れているクメール人の血を、きっとバランス良くまとめるだろうと思った。秀たる"和(クメール)"と秀た"漢(欧米)"を、魂と才で結びつけるのは、決して簡単ではない。でも善い師に遭えばできる。
そう思った。だからそれ以上はしゃべらなかった。
「なぜ先生のプロジェクトに関心を持たんですか?」Moauくんが言った。
「ビジネスの将来性ですか?」
「ん~それはあるね。でも何よりも大事なのは、先生の仕事へのスタンスなんだよ。僕らは一番最初にそれを見る」
「スタンス?」
「たとえば・・小さな部落が有ったとする。そこに小さな工場を作ったとする。そうすれば雇用機会が産まれるわけだろ? 」
「はい」
「部落は、工場と共に村になるんだ。そして工場が育てば村は町になるんだ」
「はい」
「部落の頃は、水を汲みに何時間も歩いていた子供たち女たちも、井戸が作れるほどお金ができれば、そんな苦労はしなくなる。裸足だった子供たちも靴を穿くようになる。文字を読み書きして、算数ができるようになる。そうだろ?それが意味だ。それが仕事を起す価値だ」
「はい」
「先生はそれが先験的に判ってられる。だから協力したんだよ」
二人は深く頷いた。
「産業は自然を破壊するという者がいるが、僕は聞きたい。それを言う人がジャングルの中で毎日何時間も水を汲みに歩いているかい?近くに医療機関が無くて、本当に簡単な病で亡くなったりしてるか?そんな人たちはTVの前で、冷蔵庫の中から出したミネラル水を飲みながら言うんだ。
先ず産業ありきだ。すべてはそこから始まる。僕らが皆さんの起業のお手伝いをするのは、皆さんと共に歴史を作ることなんだよ。僕はウチのスタッフにいつもそう言ってる。投資は歴史を作るためにあるってね」
「気が付きませんでした」
「うん。それが商いの根源なんだと思う。いまみんなでアンコール・ボレイに行こうとしているだろ?」
「はい」
「見たいのは、その根源なんだ」
二人は深く頷いた。
国道2号は走ると、アンコール・ボレイ村北側へ辿り着いた。
Angkor Borei Museum(XXVH+M4Q, Angkor Borei,Cambodia)に辿り着いた。は、その運河に沿ってあった。
思ったより小ぶりな破棄物館だった。
「ワットの中にあります」Suanくんがいった。
「ワットって、サンスクリット語だろう?」僕が歩きながら言うと、Suanくんがほほ笑んだ。
「はい。वाट (vāṭa)です。でもどちらかというパーリ語の「वट्ट (vatta)」の方が直接的に近いかもしれません」
「アンコール・ボレイに"ワット"があったの?」
「いえ、当時は"ワット"という概念はありませんでした。"ワット"という言葉は寺院群を表す後代の言葉です。アンコール・ボレイは古い時代からあって、クメール人たちがヒンデューを重用するようになってから文化として大きく育ったのだと思います」
「なるほどな。クメール人が来る前というと扶南のころ?」
「そうですね。アンコールボレイは扶南王国時代に成立し、それがクメール人に引き継がれた町です」
「なるほどな。だから扶南時代のものがこの博物館には多い理由なんだ」
「はい。カンボジアでは、ここが扶南王国について最大最良な博物館です」
ヒンデューな雰囲気を携えた入り口を入った。