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星と風と海流の民#27/ラピタの地・テオウマ遺跡02

https://www.youtube.com/watch?v=YrOlE3x5JRs

島内一周道路は南東エナムEnamを抜けると、再度原生林の中へ入る。内陸部へ進んでいることが分かった。
「少し走ると村に会う。この辺りの海側がテオウマ湾だそうだ」ヤンが言った。
ヤンはナビケーターを見た。どうやら村の先に左へ入る道があるな。これを行くと湾に辿り着くようだ」
ヤンはナビケータを見ながら左折した。舗装された道はすぐに無くなった。
少し走るとテウエマ川の姿が見えた。
「間違いない。この道だ。んんん、ようやくAMGが生きるなぁ」ヤンが笑った。
道は左に大きく曲がると、右側に海が見えた。
「ここでいい」僕が言うと、ヤンは右へ入る小道に入って海岸沿いでクルマを停めた。
僕は車を降りて海岸に立った。ヤンもクルマを降りて僕の横に立った。
「ここでいいのか?」
「ん。ありがとう」
「発掘は海岸で行われたのか?」
「いや、もっと内陸部だ。800mくらい入ったところだ。ここの墓所の発見は驚異的な考古学的進化になったんだ。遺体のうち17人についてDNA検査が行われている。これによって現在のパプア人とは全く違う人々だったことが分かった」
「さっきの話か。3000年間の移住は何度も行われて、それぞれ違う民族が南太平洋に拡散した・・ということか。その最初の人々がラピタ人というわけか」
「ん。マシュー・スプリッグスという考古学者がいるが、彼らは『台湾やフィリピン北部から直接来たのではないか』と言っている。ラピタ人は高度な航海術を持っていたからな。ま、これはかなり大胆な説で、おそらく北西にあるソロモン諸島群島とパプアニューギニアのビスマルク諸島あたりから広がったのではないかと言われてる」
「なるほど」
「彼らはこの地にヤムイモ、タロイモ、バナナ。そして豚や鶏などの家畜を持ち込んでいる。今の南太平洋の生活の糧を持ち込んだ人たちだ。それと同時に彼らは、この地で生きていた陸ワニMekosuchus kalpokasi、陸ガメMeiolania damelipi、色々な飛べない鳥類など食いつくしている。彼らはトンガやサモアまで拡大していったんだよ」
「すごいな。未知の海へカヌーだけで出たわけだな。どう考えても自殺にしか見えないと思うが」
「ハシボソミズナギドリって知ってるか?ワタリアホウドリのことだ」
「ん。アホウドリの糞で出来た島を買った」
「ああ、あれだ。ワタリアホウドリは南極周辺の島々で子育てする。サウスジョージア島が有名だ。彼らは繁殖シーズンが終わると南太平洋を飛び回るんだ。彼らが飛ぶ方向には島がある。
タカブシギという渡り鳥がある。彼らは北のアラスカやカナダのツンドラ地域で子育てする。そしてそれが終わると南太平洋の島々に飛ぶんだ。シロカモメはどうだ。彼らは米西海岸で子育てする。そしてその強力な飛翔力を駆使してメキシコや南太平洋の島々を飛ぶんだ」
「わかったわかった。海を渡る者には先駆者が空にいたというわけか」

「そうだ。未知の海へ出ることは自殺行為ではない。強力な航海術と堅牢なカヌーと食料があれば、風と海流の民は、目指すものを見つめながら海へ広がったんだよ」
「3000年前に?」
「そうだ。3000年前にだ」
「なるほど・・しかしなぜ3000年前なんだ。なぜ5000年前じゃないんだ?航海術が未熟だったからか?」
「それもある。しかしラピタ人たちが海へ出た最も大きな理由は、華夏族が台頭したからだと僕は思うな」
「華夏族?びっくりさせるな、マイク。その名前を聞くのは20年ぶりだ。高中gāozhōngの授業以来だ・・華夏文明のことか?」
「ああ。それだ」
中国メインランドでは、自国を華夏と呼ぶ。漢民族は華夏族と呼ぶ人が多い。
華族と最初に名乗ったのは周王朝創立者・武王だった。3000年前のことだ。彼は神農・黄帝・堯・舜に因んで自らの一族を「華族」と称した。そして夏の大禹の末裔が「夏族」と呼ばれていた。それに因んで中原の覇者たちを「華夏族」と云うことになった。
華夏族は立農の民だった。治水し兵を蓄えた。そして周辺の東夷族や北狄族、西戎族、南蛮族を制覇し中国大陸全体に広がった。
「今の潮州・・所謂、海陽と言われた地域。広東は南越だ。海岸域は隼人のための土地だった。それを華夏族が襲ったんだ。人々は南へ、そしてそのまま海へ逃げた。ラピタ人はその故郷を捨てた民だった」
「それが3000年前か」
「ん」
「その末裔が此処に在るのか?」
「ん」
「くらくらするような話だな」ヤンがテオウマ湾と原生林を見つめながら言った。


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました