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東京散歩・本郷小石川#22/本郷坂道夏散歩#02

昼はふらりと、その辺にあった店に入った。揚げ物と焼き魚しかない店。スタンダードな日本らしい定食だ。
すべて食材は半加工品の出来もので、それを焼いて揚げて並べただけなモノ。嫁さんは不満そうだったけど、僕は存外楽しんだ。
「このあたりはな、下宿屋と小さい戸建て持ち家が入り組んで成り立ってる町だ。白山上あたりは戦災で丸焼けになったが、この辺は戦火を逃れた。だから街並みも住民も古いままなんだ」
「そうね。ちいさな、マンガにでも出て来そうなナントカ荘みたいなアパートがいっぱいあるからびっくりしたわ。まだこの辺だけ昭和のままみたい」
「時間が停まっちゃったのは、地方都市のシャッター商店街ばかりじゃないよ。もっと根深く日本は時間が停まった。ここ40年近くな」
伸びる勢いがあるから、その影に潜む過去をみつめる楽しみがあるのに、時代が立ち止まっちゃったら・・過去はむなしいだけだ。栄華も興亡もほろ苦いだけのものになってしまう。

それでも、気を取り直して本郷交差点から湯島天神へ向かって歩いた。日差しは強い。本郷までは江戸のうち・・の「かねさか」を横目に見ながら行くと、町の雰囲気がガラリと変わる。路地裏の雰囲気がまったく無くなる。「少し先の左奥に旧岩崎邸の庭園がある。日本に戻ってすぐに弥生美術館行ったろ?暗闇坂の」
「ええ、東大の裏の門があると言ってたとこね」
「ああ、あれはこの少し先だ。旧岩崎邸は、江戸時代は越後高田藩榊原家の中屋敷だった。丹後国田辺藩主だった牧野弼成が手に入れて、それを岩崎弥太郎に売却したんだ。弥太郎は、反古同然の藩札を買い漁って、それを明治政府に引き取らせて莫大な財を得てたからな、
広大な屋敷を買うなんて屁でもなかった。戦後はGHQに接収されてな、悪名高きキャノン機関の本部として使われていた」
「キャノン機関?」
「ああ、正式にはZ-ユニットという。ジャック・Y・キャノン少佐がボスで、日系二世を中心に白人、朝鮮人ふくめた日本語ができる米軍将兵・軍属26人に構成されていた諜報機関だ。その頃は旧岩崎邸は本郷ハウスって呼ばれてた。なぜそんな少人数の諜報機関の本部が、こんな立派な屋敷に置かれたのかは置いといて」
「なんで置いとくの?」
「話しにくいから、置いておくの。キャノン機関といえば下山事件と鹿地亘事件だ。」
「なに?下山事件って?」
「そのうちな、今日の散歩には関係ないから・・そのうち」
「はいはい、いつものそのうちね。はいはい」
ちょうど「竹仙」の前だったんで「寄るぞ」と話をはぐらかせた。

竹仙でゴマ煎餅を買った。此処のゴマ煎餅は何気に都内随一なのですよ。一緒に品川巻きも買った。
「古いお店が、そのまま残って普通の値段で普通のものを売ってるのって素敵ね」と嫁さんが言った。
「ん。そのまま、残っててほしいね」
すこし行くと壺屋がある。壺屋では最中を買った。


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勝鬨美樹
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました