蒋経国という生き方#07/闇の特務機関
台湾島の中の蒋介石に仇名す者の粛清を担ったのは蒋経国である。
「彼しかいなかった。公式には総統府機要室資料組・秘書長という立ち位置だ。彼は特務組織の事実上の最高責任者だ。」
「特務機関?」
「蒋介石体制に逆らうものを全て処分する機関だ。」
「殺すの?」
「ん。本土から蒋介石体制を転覆させるために、共産党の工作員が入り込んでいたしね。台湾人の中にも蒋介石に不快感を持つものもいた。それと、党内の反対勢力な。これらを全て狩り出して処分するのが任務だった。」
「どうやって、見分けたの?」
「見分けない。怪しいものは片っ端に処分したんだ。蒋経国特務機関が処理した共産党40000人といわれているが。実際に中国から工作員は2000人程度。あとはすべて冤罪だった。
2000の害毒を排除するために40000の人々を粛清したんだ。彼はそれを厭わなかった。良い共産主義者というのは死体のこと・・判別しにくければ、すべて死体にするというわけだ。」
「酷い話ね。」
「完全支配をするためにはそれしかないという判断だったんだろう。同時に蒋経国は住民に対して密告を義務付けた。そして密告には報奨金をつけた。密告した者に密告された者の財産の30%を賞金として出したんだ。同時に35%を摘発に協力した人々にも分配した。これが冤罪を無数に発生させた。目障りなヤツを告発し、その財産を分捕る奴らが無数に輩出したんだ。」
「・・ひどい。」
「ヒトなる者の本質は性善ではない。性悪でもない。性善/性悪が混在しているのがヒト社会だ。そして往々にして一人の人間が善悪揺るぐこと多々ある。」
「哀しいわね。でも無実なら堂々と戦えば良いんでしょ?」
「いや・・裁判は軍事裁判だった。それも秘密裏に一方的に行われるものだったんだ。弁護士もない。起訴状もない。上告できない。暴力的な尋問を受け、怪しいと判断されれば投獄あるいはそのまま処刑された。逮捕されたことは家族にも友人にも知らされなかった。だから唐突に行方不明なる事件が台湾全地域で多発した。」
「そんな・・ひどい。そんなことがまかり通ったの?」
「蒋経国は、父・蒋介石の立場を揺るがす要素はすべて排除するつもりだったんだ。そのために徹底的な盗聴/郵便物の開封を行った。共産主義者も組織内の政敵も全てが対象だったんだ。
病的なヒステリーとも取れる徹底粛清に台湾島は晒されたんだ。」
「密告/摘発・・恐怖政治」
「そう・・それが50年代の台湾だつた。」