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星と風と海流の民#38/カーネKāneの聖地を訪ねて#04

ハワイの人々にKāneと呼ばれる男神は、他の地域ではタンガロアTangaroa/タネTaneと呼ばれている。ニュージーランドのマオリはタネ・マフタTāne-mahutaと呼ぶ。
ハワイの神話体系の中でKāneはKanaloa、Ku、Lonoと並ぶ四大神の一つだが、特にKāneは天を司り"生命の神"としてポリネシア全域で「自然の力」そのものとして崇拝されている。
Kanaloaは、海と航海を司る神である。これもポリネシア全域で広く崇拝されている。
Kuは、戦いと力、農業、そして王権を司る神である。
Lonoは、平和、豊穣、農業、収穫、雨を司る神となる。
KāneとKanaloaは共に世界を創造し生命と水を産み出した。Kāneは地の水即ち"淡水"を司り、Kanaloaは海と地下の水を司った。そしてこの二つの神が産み出した世界で起きる「力と戦争」そして「平和と繁栄」をKuとLonoが司る。繁栄も破滅もこの二神のものになる。宇宙は幾層にも重なった天界Rangi/Ra'iと地上界Papaで作られており、神々がこれを支配し、人々もまた神々によって支配されている。・・こうした世界観は、ポリネシアの島々で共通しながらも、隔絶した空間が挟まれることで、夫々の地域ごとに様々なバリエーションを生み出しているのが特徴だ。
それでも共通の特徴を持つ神々が有ることは、全てのルーツが同じだったことを表している。
そのルーツは西南から北東へ広がったラピタの血であることは間違いない。そしてもう一つの流形は西から直接東へ広がった隼人たちの血だ。
「男子は大小となく、皆鯨面文身す。古より以来、その使い中国に詣や、皆自ら大夫を称す。夏か后少康の子、会稽に封ぜられ、断髪文身、以て蛟竜の害を避く。今倭の水人、好んで沈没して魚蛤を捕え、文身しまた以て大魚・水禽を厭う。後やや以て飾となす。諸国の文身各々異なり、あるいは左にしあるいは右にし、あるいは大にあるいは小に、尊卑差あり。その道里を計るに、当に会稽の東冶の東にあるべし」 と呼ばれた人々だ。


では。なぜ当初はTāneと呼ばれた神が、ハワイではKāneとなったのか。
ポリネシア語は共通な祖先から始まったオーストロネシア語族である。それは変わらない。しかし島々へ拡散するとき、発音の変化が起きた。とくに「T」音が「K」音に変化する傾向が起きた。
例えばtangata(人間)はハワイに渡るとkanakaになる。海を表すtaiは、ハワイではkaiになる。同じくTāneはKāneに発音が替わっていったのである。それでもTāneがKに変わっても「ā」は長い母音として発音された。なぜならそれは母音中心の発音体系をもつオーストロネシア祖語では、母音の発音の長短が神聖な意味合いを強調するためだからだ。

クアロア牧場Kualoa Ranchが主催するクアロア山麓を廻るトラックツアーの中で、僕はKāneが男性神である話を嫁さんにした。
「だったらKanaloaは女性神だったの?」嫁さんが言った。
「いや男性神だ。Ku、Lonoも男性神だ。ハワイの四大神はすべて男性神だ」
「ポリネシアに女性神はいないの?」
「もちろんいる。自然の動きや人々の生活に密着する神に女性神が多い。
ペレPeleは、火山の女神だ。ヒイアカHiʻiakaは、ペレの妹で植物や森林を守る神だ。ラカLakaは、芸術/舞踊/儀式の神だ。
ポリアフPoliʻahuは、マウナ・ケア山の雪の女神だ。ペレとポリアフは仲が悪いとされている。
それとハウメアHaumeaは、再生と豊穣の神で、ハワイの神々や英雄の母とされている」
「ふうん。ようするに男性のオマケというわけね」
「たしかにポリネシア人社会では氏族(カヌ・族)や血統の継承は一般的に父系(父親側)だけどな」
「シャーマンはいたんでしょ?シャーマンは女性でしょ?」
「カフナKahunaと呼ばれた。カフナは女性の専業ではない。男性が多かった。
所謂治療師はカフナ・ラパアウKahuna Lā'au Lapa'auと呼ばれた。これは女性が多かった。
呪術師はカフナ・プーヒKahuna Puhiliと呼ばれた。これも女性が多かった。
占星術を司るのはカフナ・ホクKahuna Hōkōで、これは男ばかりだった。漁業や航海、海の霊との関係を司る役割はカフナ・カイKahuna Kaiで、これも男ばかりだった。大工や建築の技師はカフナ・クライKahuna Kula'i。そしてカフナ・ヌイKahuna Nuiは司祭だ。これも男たちだった。これは星と風と海流の民たちの特徴かもしれない」

「特徴?」
「ん。太平洋域に拡散した隼人たちの特徴だ。巫女(弥呼)は男が多い。女性の弥呼は特別だったのかもしれない。だから弥呼に姫をつけて呼んだのかもしれない」
「姫弥呼?卑弥呼のこと??」
「弥呼は、貴人を指すので、日本語に文字があてはめられた時「彦」と書くようになった。」
「弥呼は彦なの?卑弥呼は姫彦なの??」
「私見だよ。あくまでも僕の想像だ。しかし旧い日本語の中には、明らかに古代ポリネシア語にそっくりなものが多い。日本語も同じくオーストロネシア祖語がルーツなんだ。日本語の5つの母音(a, e, i, o, u)はまさにポリネシア語と一緒だ。日本語は言葉が母音で終わる。開音節だ。文法も近い。日本語は主語-目的語-動詞(SOV)だけど、ポリネシア語では主語-動詞-目的語(SVO)になる。これも時に応じて言葉順が侭変わる。これも似ている」
「ふうん。カーネKāneの聖地で聞く話が、卑弥呼と彦と言う言葉の意味なわけ?」
「山人と隼人が作った日本は、深く強く隼人の血が流れているんだ」
「そういえば、ソウルの新石器時代の遺品を見た時も言ってたわね。これらは海を渡って来た。日本の隼人と同じルーツだ、って」
「ハワイも?」
「ん。ハワイも・・だ」

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勝鬨美樹
無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました