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ベルジュラック01/サンテミリオン村歩き#46

https://www.youtube.com/watch?v=ulncL80SCuQ

翌日。朝食の後、ホテルをチェックアウトした。当初の目的ではSNCFサルラの駅まで徒歩のつもりだったが、昨夜から雨模様なので、急きょ昨日のタクシー会社へ連絡した。
サルラ駅出発を10:35分である。駅に着いたのは10分ほど前になった。
列車はTER865704。見慣れた列車で、嫁さんが喜んでいた。
「なんとなく安心するわね」
「ここから1時間の旅だ。ベルジュラックに着くのは11:35分になる」
「向こうも雨かしら?」
「ん。向こうも駅からホテルまではTAXIを予約したよ。明後日にワイナリー歩きをお願いしてるVTCの会社だ。快諾してくれたよ」
Abeilles Bergerac Taxis(6 Av. du 108ème Régiment d'Infanterie, 24100 Bergerac)
https://abeilles-bergerac-taxis.com/
「いっそベルジュラックまで、昨日の運転手さんに送ってもらってよかったんじゃない?」
「ん。それも思ったんだがな。今回は、Sarlatからボルドーまで列車で走破、というのも目的のひとつだったからな」
「あそ」
サルラ駅に着くと改札が始まっていた。乗客は少なかった。
「各停だから駅は7つ先だよ」
「ドルドーニュ川沿いに走るの?」
「いや、まだまだ蛇行して走ってる川だからな。何度も重なりながら同じ方向へ進んでいる。昨日話したPont de Fayracが最初に渡る橋だ」

50分ほど進むとSaint-Cyprien駅についた。
「各停で駅は7つなんでしょ?次の駅までが長いわね」
「ここからLaindeまでは、わりとマメに停まるよ。この辺りに小さい村が集まってるんだ。貧しい村ばかりだけどな。1500年代にユグノー派が移植して開墾した土地だ」
「ユグノー派っていうことはプロテスタント?宗教戦争?」
「ん。その通りだ。この辺りは宗教戦争の中心地だった。今でもユグノー派が作った村がドルドーニュ川沿いに点々とある。彼らが信仰の自由を求めて開墾した土地だ。しかし山深くて産業を生み出す地力が無かったから、小さなコロニー以上にはならなかったんだろうな。それがそのまま今でも村として残っているんだ」
「宗教戦争のころね」
「ん。百年戦争と宗教戦争という二つの戦いにドルドーニュ地区は晒された。この地区の話をするときは、かならずその話をすることになる。百年戦争と宗教戦争を合わせると500年に渡る戦火だ。この辺りは、時代に翻弄され続けた地域だった。実は、この列車でその道を辿ってみたいと思ったんだ」
「なるほどね。いつもの"まぼろし散歩"ね」嫁さんが笑った。根こそぎ消えてしまった江戸のヨスガ(縁)を探って歩く東京散歩を、ぼくがいつも「まぼろし散歩」と呼んでいたからだ。

列車は再度ドルドーニュ川を渡った。
「今のがPont sur la Dordogneだ。次がSiorac-en-Périgordだが、この鉄道が出来たおかげで産業のHUBとして発展した町だよ。それまでは産業らしい産業は殆どなかった。百年戦争のころ、ボルドーは英国を相手にワイン交易で躍進した。それに付随してリブリヌ/フロンザック/ポムローヌ/サンテミリオンも大きく開けたんだよ。ロット川に面したカオールやタルン川のガイヤック。そしてビュゼもこの時期に育った町だった。ベルジュラックも一時はそうだった」
「一時は?」
「西ローマ帝国が崩壊して、サラセン人とそれに続くノルマン人の襲来で、ドルドーニュに点在していた村は悉く破壊されたんだ。零細だったからね。暗黒の300年間が続く。それがわずかずつだが復興したのは、エリノアールとアンリ三世が結婚して、この地が英国領になったおかげだ。ドルドーニュ地区も、途中の関税なしでワインは/農製品はボルドーへ送られるようになったんだよ」
「でも今度は百年戦争でしょ?」
「ん。でも、この産業ルートは、領地が英国→フランス→英国と転々としても、しっかりと守られたんだ。ローマ崩壊で、流れ込んできた異教徒によるワインの製造禁止みたいなことにはならなかった」
「よかったわねぇ」
「しかし、それはボルドーの商人がドルドーニュ地区の生産者たちの生奪権を握ることでもあった。ボルドーの商人たちは、まさに生かさず殺さずで彼らをコントロールしたんだ」
「ひどいわね」
「商いを"悪魔の所業"にしてしまう輩は、古今東西どこにでもいる。それに反抗したのがリブリヌだ。リブリヌががボルドーを通さずに直接英国と取引するようになったのは1200年代だ。話はしたよな」
「ええ、そのおかげでポムローヌやサンテミリオンのワインが有名になった話でしょ」
「ベルジュラックでも同じことが起きた。1511年にベルジュラックも独自で交易をするようになった」
「300年もあとに!」
「弱者が立つには、忍耐と時間が必要なのさ。この自律交易を行ったのがユグノー派プロテスタントだったんだ」
「すごいわね」

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました