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石油の話#29/新しい燃料媒体の獲得を目指す21世紀
21世紀に入り、石油業界は大きな変革を遂げました。
従来の「セブンシスターズ」は統合・再編を経て、欧米の石油メジャー(ExxonMobil、Shell、BP、Chevron、TotalEnergies)に集約されていきました。一方、産油国によるカルテルOPEC(石油輸出国機構)と、BRICsを中心とするNOC(国営石油会社)が勢力を拡大し、時代は三つ巴の構図へと移行していきました。
この動きを象徴するのが、BRICs諸国の国営石油会社(NOC, National Oil Company)です。彼らは、かつて資源開発への大規模な投資を行うだけの体力を持っていませんでしたが、欧米各国が彼らを世界の下請け工場として利用したために、少しずつ資本力を蓄え、経済成長を遂げたことで潤沢な自己資金を得るようになっていたのです。そして、その資金を背景に独自の石油開発事業を実稼働させ始めたのです。
その特徴は、民間企業ではなく国家が主導する形で石油事業を運営し、国益として国内資源の確保とエネルギー戦略の推進を目的としていたことにあります。彼らは、石油の確保を民間に任せませんでした。これは、米国のメジャーズが民間発生の企業であり、私的事業が巨大化した存在であることと比較すると、圧倒的な違いであると言えましょう。
名前を挙げるなら・・中国では、ペトロチャイナ(中国石油天然ガス集団)、シノペック(中国石油化工集団)、CNOOC(中国海洋石油総公司)がその代表です。ロシアでは、プーチン政権下で国営企業となったガスプロムが挙げられます。ガスプロムは、現在では世界最大級の天然ガス生産企業となっています。ブラジルではペトロブラスが該当し、現在、深海油田開発の分野で世界をリードする企業となっています。
このように、BRICs諸国の国営石油企業が成長するにつれて、メジャーズの影響力は徐々に低下していきました。特に2000年代以降、ロシアや中国のNOCは独自の供給網を構築し、国際市場での競争力を高めることでその流れが加速しています。
そして、2008年のリーマンショックが起こります。
メジャーズは財務リスクの管理に追われ、経営の安定を優先せざるを得なくなりました。一方、BRICsの国営企業は、採算を度外視して長期的な資源開発を進めることができたのです。この差が、両者の競争力を大きく引き離す結果へつながっていきました。
OPECについても、NOCの存在感が増すにつれて、従来のような一方的な石油価格の決定が難しくなってしまいました。特にロシアとOPECが対立する場面が多くなると、OPECの内部でも変化が生じ「OPEC+」という新たな枠組みが登場する要因となっています。
現在、21世紀が1/4を過ぎた今、石油業界は単純なメジャーズ・OPEC・NOCの三つ巴の構図ではなく、さらに多極化し、新たな局面へ向かおうとしているように見えます。
特にメジャーズが生き残りをかけ、OPECやNOCの影響が及ばない「新しい油田」を求めるようになったことで、状況は新たな段階へ移行したのではないかと僕は見ます。
その一例が海底油田の開発と、シェールオイル掘削です。メジャーズがこうした採算が取りづらい、あるいは採算が取れない可能性のある油田を求めたのは、「供給という支配権」を他者に渡さないためでしょう。彼らは今後予想される「OPECやNOCの逆襲や罠」に対抗する準備を進めているのかもしれません。
さて、ここでシェール(Shale)について説明します。
シェールとは頁岩のことであり、薄片状の層になっています。その隙間に原油やガスが吸い込まれていることがあります。しかし、地層的には非常に深く、ほとんどが2000m以上の地下に存在します。そのため、採掘には膨大な費用がかかります。こうした理由から、海底油田の開発やシェールオイルの掘削は、投資対象として徹底的にプロパガンダされ、投資家の関心を集める手法がとられました。
そしてその資本で、多くのシェールオイル掘削が自国内で進められました。それはまさに米国にとって「新しい希望」であり、かつてのペンシルベニアの繁栄につながる夢を思わせる勢いだったのです。・・しかし、実際にシェールオイルを掘削してみると、意外にもすぐに枯渇してしまうことが判明しました。つまり、費用対効果が悪かったのです。
最新技術である「マイクロサイズミック法」を用いてなるべく含有量の多いシェール層を探して掘削しても、その採油量には限界がありました。 そして採掘方法として利用されている「水圧破砕」は、さまざまな環境問題を引き起こすこともわかりました。。
こうした採算の問題/環境破壊の問題が明らかになると、いくらプロパガンダを行ったとしても、海底油田の開発やシェールオイルの掘削は10年ほどで失速し始めてしまいました。。
ところがですね。開発は時折予測し得ない成果をもたらすものです。未来のないと考えられたシェールオイル掘削を救ったのは、同時に採掘される天然ガスでした。未来のないと考えられたシェールオイル掘削を救ったのは、同時に採掘される天然ガスでした。
現在、メジャーズが総力を挙げているのは、石油に近い価格で販売できるコンデンセート油などのNGLとシェールガスです。現在の「シェール革命」は、埋蔵量を確保しづらいシェールオイルから、NGLとシェールガスへと大きく転換しつつあります。 実際に、現在の米国は世界最大の天然ガス生産国となっており、シェール革命はシェールオイルからNGLとシェールガスへと移行しています。
この開発対象の変化は、今後のエネルギー市場の動向に大きな影響を与えることになるだろうと僕は見ています。
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