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ラスコーの谷で考えたこと#02/"出アフリカ"

ではなぜ。彼らはヴェゼール渓谷に定住したのでしょうか?
そもそもどのような経路を通って同地に至ったのか?
残念ながら、詳細には判っていません。大雑把に判っているのは・・
現生人類に繋がるヒトが生まれたのはアフリカ東海岸。75000年くらい前のことらしいということ。
そして彼らが"出アフリカ"をし始めるのは50000年前ごろ。まだまだヴュルム氷期真っただ中の頃です。

じつはヒト科としては後発の出アフリカ組です。旧人たちは既に欧州大陸に広く拡散していました。初期旧人の遺跡はブルターニュ地方では30か所ほど、中期には70か所ほどが発見されています。何れの遺跡も沿岸や川の畔に在り。漁労/採取生活(屍肉漁りが最近注目されている)が中心で、そしてやがて狩猟生活へと進んで行ったようです。
彼らは石器と火を持っていました。後期になると、この石器は木や骨と組み合わされて精密に進化していきます。火も、ネアンデルタール人は自在に起こせるようになっていたようです。しかし言葉を持っていたかは分からない。それでも意思を表現する"何か"はおそらく持っていたでしょう。
では。彼らはどの位の員数だったのか?フランスの学者が遺跡の数からその数を算出していますが・・欧州全体でほぼ20000人程度だったろうと言っています。けっして多い数ではない。
現生人類に繋がるヒトらも、その旧人の後を追うように北へ広がりました。
ミトコンドリアDNAに基づいて現生人類の移住経路を語る人々はそう言います。そして現生人類の遺伝的バリエーションの少なさから、彼らは2000人ていどの極めて少ない集団だっだろうとも言う。
その2000人から、現在の70億人が生まれてきたわけです。

ここでひとつ大きな疑問が湧きます。他のヒト"種"は、すべて絶滅しました。現生人類に繋がるヒトらだけが生き残ったのです。
なぜか?
幾つかの説が有りますが、ここでは"死産説"を取りたいと思います。
ヒト類は、脳が巨大化するという遺伝的特性を持った"裸のサル"です。なぜそんな特性を"裸のサル"たちは持つようになったのか?それはよく判っていません。進化論的に考えるならば、一部体躯器官の発達は、必ず環境適合のための特殊進化だからです。マンモスもキリンも四足動物の角も、すべてその結果です。しかし"脳の巨大化"にはそんなメリットが無い。なぜなら何れの"裸のサル"も、脳を巨大化しなければならないほど、脳を使っていないからです。
脳は極めてエネルギーを消費する器官なので、巨大化すると摂取した栄養の半分は脳に取られてしまいます。そのため他の"毛に覆われたサル"たちが持っているような強い腕力/脚力を、"裸のサル"たちは持つことが出来ませんでした。彼らにとって脳は分不相応な厄介な器官でしかなかったのです。にもかかわらずヒト科のサルの脳は時代とともに巨大化していった。これを"進化"というのは中々難しい。ヒト類の脳の巨大化は、環境に適応するための特殊化というルールから外れているからです。
ただただ巨大化した。そのために仕舞いには嬰児が産道を通って母の胎内から出られなくなってしまった。出るには骨盤の間を通らなければならないからです。巨大化しか脳がここで詰まってしまって死産になり、母も子も死にます。
現生人類に繋がるヒト以外の全てのヒト類が絶滅している原因は、これではないか?と云われています。多数ある霊長類の中で、ヒト類だけは何故か脳が巨大化し続け、そして最後には生まれることが不可能になって死滅したのです。

では。なぜ現生人類に繋がるヒトらは、そのトラップから逃れられたのか?
それはこのグループだけが早期出産するようになったからです。
通常サル類は胎内期間は18か月です。それを10か月で産んでしまう。超未熟児として生むことで、骨盤の間を通過できるようにしたのです。しかしそんな超未熟児は、少しの間でも放置すれば必ず死んでしまう。したがって超未熟児を出産した母体は、子を守るために他の全てのことができなくなってしまいます。そのため母子を支える周囲が必須になる。
そうやって辻褄を合せようとすると・・現生人類に繋がるヒトらは、他の"裸のサル"たちよりも遥かに強い絆を同族間の中にもっていたグループだったのではないか?他者に共感し、互恵し合う種族だったのではないか?・・そんな風に思えてしまいます。
つまり現生人類に繋がるヒトらは、早期出産と云う回避策を取ることで、現代人に繋がる「人らしさ」を獲得して行ったのではないか?僕はそう思ってしまいます。
そしてもう一歩、論を進めるならば。超未熟児として、謂わば胎外胎児期を8か月過ごすことが、人の心の在り方を決定的に方向つけているのではないか?僕はそう思ってしまいます。人が、アプリオリに己を超えた所に己を見つめる視線を感じるのは・・実はこのせいではないか?そんな風にも思ってしまうのです。

無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました