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ベルジュラック10/サンテミリオン村歩き#55

シャトー・ド・モンバジヤックを回るのに2時間ほどかかった。ランチは少し離れたラ・トゥール・デ・ヴァンLa Tour des Ventsを一時から予約していたので、大慌てで城を出たのだが、村の中に観光センターTourism House and Wine Monbazillac(Mairie - Le Bourg, 24240 Monbazillac)が有ったので、ムリして寄ってみることにした。ホールに入ってみると、地元の生産者24人の作品がずらりと並んでいたので、とても興味深かった。いくつか試飲してみたが、素晴らしいものが多かった。
「白が多いのね」嫁さんが言った。
「モンバジャックは甘口の白で有名だ。ソーテルヌと同じくらい古い歴史を持った貴腐ワインを作ってる。ま、でも"貴腐菌"という発想はなかった。パスツール以前だからな。カビの生えた遅摘み葡萄から作る白ワインは甘いという経験則から出来上がったワインだろう」
「なるほどねぇ」
「甘口のワインと言えばドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼとハンガリーのトカイワインそしてソーテルヌなんだが、モンバジャックの白は充分この三者に匹敵するくらい秀逸だ」
「プロヴァンスへ行ったときも、同じような話をしていたわね。ストローワインStraw Wineのこと。ストローワインというのは、収穫した葡萄を藁strawの上で陰干しして作るからストローワインだ。買うのは主に海外からの貿易商・オランダ商人だということ話してたわ」
「よく憶えてるね。大航海時代も1600年代になると、スペイン/ポルトガルに継いでオランダ商人が大活躍したんだ。オランダ商人は、ベニスの商人みたいに何でも商材にしたんだが、ワインについては仲買いだけではなく開墾開拓まで踏み込んでいた。彼らはノルマンディーやガスコーニュに深く商売の羽を広げていたんだよ。ボルドー・ジロンド川河口メドック地区は、彼らが干拓し開拓した地域だという話はしたな。ラ・ロッシェル/ナントから始まってプロヴァンス北西も、ドルドーニュ中流地区も彼らの商域だった。どうしてだと思う?」
「わからないわ」
「オランダ商人は、ノルマンディーやガスコーニュの難民だったんだ。もともとはフランス人だった」
「え?どういうこと?」
「宗教戦争だよ。カトリックに追われたプロテスタントは、最後の逃げ場所をオランダにした。オランダ商人と言いながらも、実はノルマンディーやガスコーニュの難民あるいはその裔だったんだ」
「びっくりね」
「ん。もともとあの地区はブルゴーニュ公国の一部だった。フランドル地方・羊毛の国だ。ブルゴーニュはこの地区を介して英国と繋がっていたんだよ。これが同公国の大きな資金源になっていたんだ。それがハプスブルグ家のものになった後、ゴタゴタに乗じて土地の有力者オランイェ公ウィレム1世を中心に80年戦争が起きたんだ。そして1648年にネーデルラント連邦共和国として独立したんだが、この時は同共和国はプロテスタントの国だったんだよ」
「なぁるほどね、追い払われた人々が今度は商人として資産を持って戻ってきたわけね」
「ん。それが1600年代1700年代の大きなトレンドになった」

そんなおしゃべりをしながらの観光センター見学だったから、予約は30分近く遅れてしまった。しかしM氏が前もって連絡してくれだので、快くランチの席に付くことができた。
La Tour des Vents(D933, Lieu dit, 24240 Monbazillac)
http://domainedelatourdesvents.com/

「ホテルを兼ねたレストランなのね」嫁さんが言った。
「ん。ここに一泊というのも考えたんだが、今回は少し駆け足でベルジュラックは歩こう」
レストランのクオリティは高かった。

食事をしながら嫁さんはオランダの話を聞きたがった。
「パリから南西へ広がったユグノーたちは、南伐してくるカトリックに追われて、多くの人々がオランダへ逃れた。そしてユグノーコミュニティを作ったんだ。彼らは幾つものワロン教会を建立した。が各地に存在し難民と言っても、もともと資産と教育を兼ね備えた人々だからな。急速にその勢力と支配力を同地で伸ばしたんだよ。間違いなく彼らが80年戦争のコアパーソンだった。そして共和国として独立した後は、大きく拡大化したんだ。
金哲雄が書いた『ユグノーの経済史的研究』というのがある。
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こいつが滅法おもしろい」
「ふうん」
おやおや本を手にするところまでの興味はないようだ。


無くてもいいような話ばかりなんですが・・知ってると少しはタメになるようなことを綴ってみました