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星と風と海流の民#22/ラピタ人の地・バヌアツへ02
バウアフィールド国際空港Aéroport International Bauerfieldで僕を待っていたのは華人30代初めの男だった。ヤンと呼ぼう。
彼は、大きなプレートを持って出国ゲートに立っていた。彼は僕を見ると驚いた顔をした。そして握手しながら言った。
「日本の方だとコーディネーターは言ってたが」
「父はジューイッシュなんだ。母は日本人だよ。国籍は日本だ。シンガポールはグリーンカードだが」
「なるほど。今回はバヌアツの蹉跌に関心持っていただいたということで、わざわざ訪ねてくれると伺った」
「自分で見たものにしかお金は出したくないんだよ。だから案件があれば行くことにしてるんだ」
「なるほど。素晴らしい」
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迎えの車はベンツのGクラスだった。
「すごいね、AMGラインのディーゼルターボ4WD」
「これが有効なところへは行かないんだがな。先ずは見た目だよ」とヤンが笑った。
空港からホテルまではおよそ10kmくらいだろう。平坦な二車線を走った。
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「リンル・ハイウエイLinl Hwyというんだがな。この島じゃ一番整備された道だ。マイクはバヌアツは初めてか?」
「いや、二回ほど来た。しかし滞在はいつも一泊だ。仕事の打ち合わせて帰るだけだ」
「ん~そうだな。お宅の同業者が住所を置いてる町だからな」
「しかし事務所まで、ここに置いてる企業は少ない。むしろ開発会社の方が多いと思うが」
「たしかに、うちみたいなところが支局を置いてる」ヤンが言った。「しかし、今回は三泊だな?投資先を見るだけなら長くも二泊だと思うが」
「ん。いい機会なので行きたいところがあるんだ」
「?」
「バヌアツ国立博物館Vanuatu National Museumを訪ねてみたい」
「ほう」
「ラピタの彩色土器が見たいんだ」
「ラピタ?MUYAZAKIか?」
「いや、それはラピュタだ。ジョナサン・スウィフトの描いた天空に浮かぶ島の人々だ。ラピュタ人は天空から人々を監視し、世界を支配していたという寓話だ」
「違うのか?」
「ん。ラピタ人は紀元前2000年から3000年にいた海洋民族だ。彼らがメラネシア、ポリネシア、ミクロネシアに広がった」
「なるほど。初めて聞いた」
「その人たちの遺した彩色土器がバヌアツ国立博物館にあるんだ」
「いままで色々なファウンダーを案内してきたが、お前みたいなことを言う者は初めてだ」
「そうか?自分の暮らしている土地の歴史について、ロクに知らないガイド役に出会うのは、初めてじゃないが・・」
「たしかに」彼が笑った。
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