夫婦で歩くブルゴーニュ歴史散歩2-3/スノザン#01
https://www.youtube.com/watch?v=5svlwT7Fvho
ホテル・シャトー・イジェChâteau d'Igéの前は、そのままシャトー通りRue du Château。ホテルの前には1789年7月26日通りRue du 26 Juillet 1789(57 Rue du 26 Juillet 1789, 71960 Igé)がある。何の目印もなく細い道だ。此処を歩いた。ただただ普通の民家を横切るとおりだ。
「シャトー・イジェはこの地の領主だったブラトニエール家Bretonnièreの城なんだ。最後の領主はフランソワ・シャルル・アルベール・ド・ラ・ブルトニエールFrançois Charles Albert de La Bletonnièreだ。
もともと、この辺りはすべてクリュニー修道院の持ち物だった。その一部が国王ルイ10世の命令で1235年9月にマコン伯爵の管理下に移ったんだよ」
「あ、それでこの付近をマコンと呼ぶのね」
「ん。マコン伯爵には娘アリックス・ド・マコンAlix de Maconがいた。彼女と結婚したのがジャン・ド・ブレーヌJean de Braineで、マコン伯爵から財産としてイジェを与えられたんだ。イジェはジャン・ド・ブレーヌとアリックス夫婦の持ち物になるんだけど、ジャン・ド・ブレーヌは1239年、十字軍に参加して死んじまうんだ」
「あらま。死んじまうの?ひどい言い方」
「寡婦になったアリックスは修道尼になるんだ。ノートル=ダム=デュ=リスの初代修道院長が実は彼女だよ」
「よくそんなことまで知ってるわね」
「アリックスは、財産すべてをフランス王に売却したんだ。それを買ったのがPierre de Salornayという人だ。1291年だ。以降、何回か転売が繰り返されて1789年にはブラトニエール家Bretonnièreのものになっていたんだよ。そのときの領主がフランソワ・シャルル・アルベール・ド・ラ・ブルトニエールFrançois Charles Albert de La Bletonnièreだ」
「・・あ。出てきた。1789年」
「1789年7月14日にパリでバスチーユ牢獄が襲われたのは憶えているよな。これに呼応してフランス各地で市民騒擾が起きたんだよ」
「なに?そーじょーって。難しい言葉、使うわね」
「暴動まで至らないものを騒擾という。有名なのは昭和43年にあった新宿駅での学生デモと機動隊と衝突した事件が有る」
「あ・あなたが完全武装の機動隊員に追いかけられて早稲田まで逃げた話ね」
「そりゃナイショだ。イジェ村では1789年7月26日にそれが起きた。イジェ城を人々が襲ったんだ。その時に群衆が通った道がコレでね、だからこの通りは"1789年7月26日通りRue du 26 Juillet 1789"というんだよ。
・・たまたまフランソワ・ブルトニエールにはタイミングが悪かったんだろうな。彼は畑を貸し出していた農民と揉めてた最中だったんだ。実は前年1788年は未曽有の凶作の都市でね。人々は喘いでいたんだ。にもかかわらず・・まあだからこそ、貴族たちも金に困って、唯一の徴収さきである市民/農民へ関税と印税を増額を指令し、土地の貸し出し金値上げを強行していたんだよ。もちろん人々からは不満と抗議が続出した。それでブルトニエール家は、彼が押さえていた水利を止めてしまったんだ」
「あらま」
「いままでは、大抵その貴族が振るう強硬で、農民たちが泣いて納まる話なんだが・・バスチーユで上がった炎がそれを許さなかった。パリ騒擾から、たった12日後、このマコンの田舎村でも同じく貴族の屋敷が襲われる事件が起きてしまった・・と言う訳さ。そしてここから始まった騒擾が、瞬く間にブルゴーニュ全体に広がったんだよ」
嫁さんは立ち止まってイジェ城を振り返ってみた。
「そう・・今回はその火元を訪ねた訳ね」
「勢いを得た市民/農民たちは、城や僧院を襲って武器を奪い、狂乱を広げたんだ。このイジェの騒擾は、7月28日からシヴレーとシャテルローに飛び火し、サントそしてコンフォランとモンリュソン、南のアングレーム、リモージュ、カオール、ブリーヴ・ルへと、まるで熱病に憑かれように瞬く間に広がったんだよ」
「鳥肌が立つ話ね」
「もちろんブルゴーニュだけではない。7月30日いはモントーバンでも始まった。そして7月31日、8月1日にはトゥールーズとロデズでも火の手は上がった。 8月1日にロンベズ。そして8月2日にパミエ、サン ジロン、8月3日サンゴーダン。フォワとタルブは8月5日だ。・・たった半月で、イルドフランスは僧侶と貴族の血で塗れたんだよ。ド・ベルニ家、ヴォギュエ家、ダントレーグ家などは大半が惨殺された。
このイジェの騒擾は7月26日日曜日から始まって5日間続いたそうだ。建物だけが残って何もかも・・ドアの蝶番さえ持ち出されてなくなったそうだ」
「・・・そう・・そのすごい事件の中心に、今夜は泊まるのね・・夢、見そ」
「大丈夫、いまのシャトー・イジェは、そんな歴史を吹き飛ばしてしまうほどのレストランを持ってる。いまのオーナーはGeorges Blanだ」
「え~。まだ存命なの?三ツ星シェフの魁でしよ?」
「ん。彼の弟子たちの作品だろうけどね」
「そう!♪」